衝撃的な出会い
五回目の精神科外来は、いつもと違って混んでいた。
閑静な住宅街の中にあるこの精神科は、周りの家々に隠れるようにひっそり佇んでいる。
普段は待合室には、自分一人か、多くても三人しかいない。
でも今日は十人いた。
まるで普通の病院みたいだ。
受付の人が忙しそうに、人の名前を読んだり対応したりしている。
俺はなんだか居心地が悪かった。
ここにいる全員、精神疾患持ちなんだから、気にすることなんてないんだが、どうにも尻の座りが悪い。
「朽葉さーん」
思わず席を立ちかけたが、俺は紅葉だ。
受付をなんともなしに見ると、信じがたい光景が広がっていた。
猫が二足歩行で受付の前にいるのだ。
それもただの猫じゃない。馬鹿でかい猫だ。百七十センチある俺の身長よりデカい。
猫は普通に受付の人と受け答えして、処方箋を貰っていた。
誰も不思議にも思わないようだった。
なんだ?いつから猫がデカくて二足歩行で歩くようになったんだ!
もしかして、これが普通で今まで俺が気がつかなかっただけか?
そんなわけない。
猫が病院から出るのを見て、俺は迷わず後を追った。
俺が呼ばれるのはどうせもう少し先だし、あの猫に確認して、自分が幻覚を見ていることを早く確信したかった。
「ちょっと待ってくれ!」
猫が振り返った。目つきの悪いふてぶてしそうな猫だ。
「何か落とし物でもありました?」
口調を丁寧だが、慇懃無礼といった感じだった。それもそうか、知らない人に声をかけられたら誰だったそうなる。
俺は次の言葉に迷った。
だってなんて言えばいい?
あなたは猫ですか?
そんなのただの不審者じゃないか。
迷っている俺の姿を見て、猫は困惑した顔で言った。
「あの、すみません。もう行きます」
「あ、ちょっと」
俺は意を決して言った。
「あの、あなた、猫だったりします?」
頼む。こんな質問をする俺を誰か殺してくれ。
俺の予想に反して、猫の尻尾がピーンと上を向いた。
マジマジと俺を見つめる、デカい猫、いや朽葉さん。
朽葉さんが口を開いた。
「俺の正体が見えるんですか?」
その言葉に、俺は困惑しながら答えた。
「あの、俺にはあなたがデカい猫に見えるんです」
デカい猫、もとい朽葉さんはまたマジマジと俺を見つめた。
「マジ?」
「マジで」
朽葉さんは、はぁぁぁ、とデカい溜息を着くと、俺に言った。
「ちょっと話しませんか?そこの喫茶店でも」
「あ、すみません。俺もうすぐ診察時間なので」
「じゃあ、終わるまで待ってます」
「そうですか」
何がそうですか、なのか分からなかったが、一応返事をして、病院へ戻った。
驚いたことに、どうやら俺の幻覚ではないらしい。適応障害に加えて統合失調症まで掛かったらどうしようかと思っていたから、良かったのかもしれない。
いや、良かったのか?




