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幼なじみがUFOを引き寄せるので、宇宙人と一緒に頭を抱えています

作者: 久田アヤ

 幼なじみの楓との帰り道、目の前で何かが墜落した。

 ものすごい勢いで地面と衝突したそれに、瞬時に頭の中で『山で大規模落石 高校生男女二名死亡』という新聞の見出しが躍り出る。 

 こんなの防ぎようがない。儚い人生だった。アーメン。違った、南無阿弥陀。まぁどっちでもいいか、死ぬんだし。


「……?」


 しかし、響き渡る衝撃音とは裏腹に、意外にも俺たちへの被害はなかった。だが、その墜落した()()からはモクモクと煙が立ちこめている。


 何かっていうか、これ。


「UFO?」


 銀色の機体に目を奪われたままの楓が俺に問う。


「いや俺が知るわけないだろ」

「でも地面は抉れてるのに、私たちは無傷だよ。音はあっても振動もなかったし。おかしいよね?」

「それはそうだな」

「しかもこんな形の飛行機があるわけないし。飛行機以外だとしても、誰が飛ばしてるか分かるように何か書いてるはずだよね? 企業名とか、なんとか号とか」

「だから俺が知るわけないだろって。俺だってUFO以外思いつかねぇけど、そもそもUFOって存在するのかって話からだし」

「でも実際に目の前にあるよ?」


ウィーン……


 いかにもな機械音で、UFO(仮)の扉が開いた。同時に「あ、UFOだ。やっぱ俺たち死ぬかも」とも思う。


 扉が、現代技術では説明できない開き方をしたのだ。長方形に『開いた』けど、その『開いた扉』がどこかに収納されてるようには見えなかった。

 物理的におかしい。どこにも線が入ってない、つるつるの機体だったのに開いたのもおかしい。


 すぐに逃げられるよう楓の腕を掴んだが、俺の意図に反して楓は「待って」と言う。扉から出てきたのが『人間』にしか見えなかったからだろう。

 おいマジでやめろお前いつか好奇心で死ぬからな、マジで! 一人なら逃げてたからな、俺は!!


 UFOから出てきたのは、30代男性といった風貌だった。

「人間? UFOじゃないのか?」と思ったのと同時に、男は言った。


『お前らのせいで軌道ズレちまっただろうが! どう落とし前つけてくれんだよ!』


 こわ。ヤクザかよ。

 頭の中ではツッコみつつも、楓を掴む手に力を込めた。声が、何らかの機械を通して出したものだ。見てくれは日本の鳶職人と言われても納得するくらいなのに。おかしい。


 もちろん楓は物怖じしなかった。俺の手に自分の手を添えながらも、男に疑問をぶつける。いや本当にやめてくれ、マジでその好奇心はどこから来るんだ。


「軌道ってなんですか?」

『飛行軌道だよ! お前か? 変な()()使ってんの!』

「引力って?」

『それだよ、それ! お前がすげぇ速度で思考してっから軌道に干渉してんの! これだから地球は事故多発惑星って呼ばれてんだよ! こういうのは管理してくれねぇと!』


 いやいやいやいやいや。じゃあ宇宙人じゃん。


「宇宙人ですか?」


 いやいやいやいやいや。すげえ直球で聞くじゃん。


『どうせ言ってもわかんねぇだろ、発展途上惑星民が。いいからそれやめろ。アホになれ。今すぐ』

「アホ……。アホって具体的にはどういう」

『だからぁ!』


 無理だろうなぁ、楓には。

 昔からコイツはこうなのだ。2歳児が通るなぜなぜ期を高校生に至るまで保持している。学校で不思議ちゃん扱いされるのも然もありなんという感じだ。

 とりあえず、今すぐ殺されたりする流れではなさそうだ。

 そう判断し、俺も口を挟む。


「あの、すみません。引力って、何で楓から引力が? 人間ですよ?」

『あーもう』


 いかにも説明するのもだるいといった表情で、男は頭を掻く。


『地球人は技術が乏しい分、思考力が高すぎるんだよ。俺たちはAIにやらせるがな。で、その中でも稀に、AI並みに思考を回してる奴がいやがる。そうすると、船のAIが深読みしてそっちに干渉されるんだ。「こっちにも宇宙のような軌道がある、計算に入れよう」ってな。もちろん入れたら終わりだ、()()なる』

「私が? 天才ってことですか?」

『そうは言ってねぇよ。お前ら思春期あたりだろ? 幸せだの人生だのしょうもねぇことをぐるぐるぐるぐる考える時期だからな』

「へー。思考力がすごいだけってこと?」

『まぁそんな感じだ。俺たちの銀河ではそういう奴等は指定管理個体になる。つまり、()()()()()()()()()()()適切に保護、管理されるわけだ。固体によっちゃあ研究者にもなるがな。それも一握りだ』

「社会不適合者……?」

『そっちの方が近いかもな』

「ちょっと自覚はあったけどショックかも」


 自覚あったのかよ。びっくりだわ。


「まぁでも、そうか。ああ~。ってことは……なるほど〜」

『だからそういうのをやめろっつってんだろうが!』


 新しい素材を得た楓は、一人で何かを考えてはうんうん考えたり頷いたりしている。まぁ、こういうところだよな。


「じゃあ、私が考えるのをやめたらいいんですか?」

『おう。やってみろ。最短でも30分』

「…………あの、考えないようにするためにはどうしたら……」

『だからそれを考えんなっつってんだよ! 電波かお前は!』

「言ってることめちゃくちゃですよ。楓にそれ、無理だと思います」

『じゃあどうしろっつーんだよ少年。ああ?』

「何でそんなヤクザみたいな……宇宙人にもヤクザっているんですか?」

『いるか! AIによる翻訳に決まってんだろうが!』

「いや、だとしても母語でヤクザしてますよね」

『こっちは焦ってんだよ! 一週間もすれば軌道全部ズレるんだからよぉ! 靴でも舐めりゃいいか!? おお!?』

「それはそれで頭真っ白になりそうですけど……。っていうか、就寝中じゃダメなんですか?」

『確かに、夜は地球ドライブは狙い目だって言うよな』

「ちょっと知らない情報ですけど」

「でも、夢って記憶の整理時間じゃないの? それって“考えてる”ってことにならない?」

『うるせぇな! とりあえずやってみんぞ! お前ら明日、またここに来い。俺がいたら失敗だ』



 □



『見ての通り失敗だ』

「本当だ、失敗だ」


 堂々と目が合うなり、宇宙人のオッサンはそう言った。楓の感想にまた『うるせぇ電波!』と怒り狂っている。朝から元気だな。


「宇宙人さん、寝れました?」

『地球は気候がいいな、野宿でも問題なかった。……じゃねぇよ! どうすんだよ! このままこんな辺境で野垂れ死ねっつーのかよ! お前を殺して俺も死んだろか!』

「何で俺が怒られてんの? 一番関係ないんですけど」

『関係ねぇなら来んなや! でもお前がいないと俺はこの電波と会話できる自信はねぇからそこはありがとな!』

「情緒大丈夫ですか?」


 まあ遭難してる時点で大丈夫じゃないか。

 ……ん? 遭難?


「そういえば、緊急時のマニュアルとかないんですか? もしくは大使館とか。NASA?」

『あることにはある。けど、めちゃくちゃ高ぇ。まぁ元々地球は整備されてねぇ惑星だから自己責任みたいなところあるし……』


 声ちっさ。急に元気なくなったな。なんか気の毒になってきた。


「海外の水道水で腹壊したから病院にかかったら診察料が旅費以上、みたいな感じですか」

『そうそう』

「通じるんだ」

『クソ……もうちょい高い保険入ってりゃ良かった……』

「こんな辺境で野垂れ死ぬよりはマシじゃないですか? この通り、楓は寝てても電波なんで」

「そういえば電波って語源なんだろうね?」

「そうだな、不思議だな」

「っていうか、その保険会社? のUFOも私に引き寄せられないかな?」

『……』

「……」


 楓のふとした疑問に、俺たちは静かに目を合わせた。

 なんだろうか。明確に気の毒だな、この人。


『……明日、ここに新しい宇宙船が落ちてたらそういうことだ』



 □



『そういうことだ』

「ほんとだ、そういうことだ」

『うるせぇよ! お前のせいだからな!?』


 楓の一言に、宇宙人のオッサンはまたキレた。よくもまぁこんなにもキレられるものだ。宇宙人ってテンション高いんだろうか。やっぱ宇宙にいるし、血圧とか。……関係ないか。


『いやぁ、一応手動設定してきたんですけど。すごいですね』


 オッサンの隣にいる青年宇宙人は冷静な様子でそう言った。宇宙とテンションと血圧は関係ないらしい。


「こっちの宇宙人は落ち着いてるんだな」

『俺が落ち着いてねぇみたいに言うな』

「そう言ったんだよ」

『せめて敬語は使っとけや!』

『まぁまぁ、●↑√□さん』


 キレるオッサンを青年が宥める。名前を呼んだようだったけれど、聞き取れなかった。翻訳が難しいのか。


『本部には連絡をしているので、このあと救助がやってきます。次のは専門の船ですし、落ちることはないですよ。ところで、えーっと、地球人のお嬢さん』

「上坂楓です」

「こら、知らない人に名前を教えるな」

「宇宙人だし」

「宇宙人も人だろ」

「人……ってことは生物学的には一緒なのかな?」

「それは知らん」

「じゃあ人とは言えなくない? (あきら)の言う人ってどういう定義?」

「ぐ……っ!」

『お前今日も絶好調か』


 本当だよ。絶好調極まりないよ。そういうところがUFO呼ぶんだぞ楓ちゃん。


『ははは……えっと、上坂楓さん。今回二つのUFOが貴方の引力で落ちてしまいました。つきましては、我が星で一度保護をさせていただきたく……』

「はぁ!?」


 急な提案に思わず大声を張り上げてしまった。俺の声量に驚いたのか、楓は俺の隣で一瞬だけ肩をビクッとさせた。

 向かいのオッサンは『そりゃそうだよな』と納得するように呟いている。


「っざけんなヤクザか! こっちは被害者だぞ!」

『俺も被害者だわ!』

「勝手に辺境に来て勝手に落ちただけだろ! オッサンの自己責任だろうが!」

『誰がオッサンだ! こう見えて俺はまだ200歳いってねーぞ!』

「宇宙規格で返してくんな! 楓がまた『地球と時間軸が違う? それとも生物としての違い?』みたいな顔になってんだよ!」

「すごい、彰」

『当たってんのかよ! 本当にすげーな!』

「ありがとよ!」


 ヒートアップしておかしくなってきた自覚はある。だが叫ばずにはいられなかった。

『我が星で保護』? なんだその危険ワードは!


『まぁまぁ、お二人とも。しかしながら、地球にはこれからも数多の宇宙船がやってきます。年齢による一過性の引力かもしれませんが、このまま放置してしまうのは上坂さん自身にとっても危険です。今回は●↑√□さんが衝撃吸収システムを入れていたおかげでお二人に怪我はなかったと聞いていますが、義務化にこたえていない宇宙船もまだ多いんですよ』

「知るか、んなこと!」

「でもUFOがいつでも降ってくるのは確かに困るかも」

「楓!」


「一応傘持っていっとこうかな」みたいなノリで言うな!

 楓を一喝するも、楓は何食わぬ顔で青年に問いかけた。


「宇宙についていけばいいんですか? 安全なんですよね?」

「何で行く方向になってんだよ! アホか!」

「だって保険会社? なんですよね? 割と安全なんじゃないかな」

「だとしても宇宙だぞ!」

『あ、申し遅れました。わたくし宇宙保全局 太陽系部門の×#→∑です。関係機関のNASAの証明書もありますけど、見ます?」

「ほら」

「ほらじゃねーよ! 見てもわかんねーし! 名前も聞き取れねーし!」

「でも他に手がないよ。実際に二台? 二機? も落ちてるんだし」

「なんかあるだろ! 引力発生するくらい思考してるなら考えろよ!」

「別に天才じゃないもん、私」

『あとそれ、また他の宇宙船も落ちてくる可能性あるんで率先するのやめてもらっていいですか? というか、良かったらお兄さんもいいですかね? 一応目撃者という形で』

「うるせー! 任意で引っ張るんじゃねー!!」


 叫んだ俺を、宇宙人のオッサンが『あーあ』みたいな顔で見てくる。俺か? おかしいのは俺なのか?


「彰、何でそんなに怒ってるの?」

「何でって……!」

「任意なら彰は来なくていいよ。でも、誰かを巻き込む可能性があるなら私はそっちの方が怖いから。学校に落ちたりしたら大変だよ」

「……!」


 そう言われ、一瞬で心臓が冷え切ってしまった。

 確かにそうだ。楓は、俺なんかよりずっと『考えている』。今回は運が良かっただけで、それこそ飲酒運転に巻き込まれるみたいな形で墜落が起きる可能性だってなくはないのだ。

 そして、楓は宇宙に行くリスクよりそのリスクを取った。

 ……クソ、俺がかっこ悪いだけじゃねーか。


「分かった」

「うん」

「じゃあ、俺も行く」

「え? いいよ、無理しなくて」

「してねぇよ」

「いいってば。嫌々来なくても」


 あーあ。俺はかっこ悪い。本当ならもっとドンと構えて、楓に頼られるくらいになりたいのに。

 楓の方が考えてる。頭がいい。確かにそうかもしれない。だから、楓はいつも感情に振り回されないんだろう。


 俺みたいに、こんな大声を出さないんだろう。


「嫌々に決まってんだろうが! 行きたくもねぇし行かせたくもねぇよ! っつーかそんなに考えてるなら俺がこんな挙動になってるのを不思議がれよ! そして思えよ! 『私のこと好きなの?』って! 好きじゃねーと怒ってねぇだろ!! 何回もこんなところについて来ねぇだろ!! こんな見ず知らずの宇宙人の前で、全力で告白しねぇだろ!!!」


 鳥が、チチチッと近くの木から飛び立って行った。逃げるようなその音のあと、あたりは木々の音だけになって相対的に静かになる。


ピピッ、ピピッピピッ ピーーーー


 そよ風に吹かれた山がさわさわ揺れる中、不釣り合いな電子音が響いた。墜落したUFOからだった。


ウィーン…


『あ』

『治りましたね』

『いいぞクソガキ! このまま思考を鈍らせろ! 触手貸すか!?』


 どうやら俺の一撃が楓の思考に効いたらしい。

 マジか。それ俺の告白、どういう風に捉えられてんの?

 っつーか、


「……触手? って何ですか?」

『しまった、余計なこと言った!』

「アホかオッサン!」

『今のはオッサンだった! すまん!』


 せっかくのチャンスを不意にしたオッサンは、俺のツッコミに『触手は地球でもスタンダードなんだろ!?』とか『え!? 実物はまだない!? 妄想だけで流行ってんの!? 人間の思考力怖ッ!!』とか叫んでいる。

 まぁ後者に関しては軽く同意はする。ドラゴンと車とか言ったらまた慄くだろうか。


「あの……」


 わーわーと騒ぐ俺たちに、楓は遠慮がちにそう言った。


「多分、もう、大丈夫だと思います」

「え?」


 思わず聞き返したが、楓は誰とも目を合わせずにこうも続ける。


「私がぐるぐる考えてたの、彰のことだったから。解決したので」

「えっ」


 えっ。何? えっ?

 珍しく頬を染めた楓は、小さな両手で頬を包み、俺を見上げた。

 いつも何か深いことを考えていそうな瞳はいつもより光を集め、いつもより数百倍可愛い形をしている。


「両思いだったので」


 以降、俺たちの目の前にUFOが墜落することはなかった。

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