帰ってきた隊長 3
そのあと、わたしたちはフードコートにあるレストランに入った。
「もう10年以上まえのことだが……」
料理を待っていると、だれともなしにお父さんがつぶやいた。
「休暇のとき、ここに家族みんなで買い物にきたことがあったんだ」
みんなのなかには、もちろんお母さんも含まれている。
お母さんのことを思いだしたからなのか、お父さんの視線が一瞬わたしのペンダントにうつった。
「少し目をはなした隙に、サキがどこかへ行ってしまってね。あわてて店のなかをさがしまわったよ」
「お父さん、それ、ほんとの話? わたし、ぜんぜんおぼえてないよ」
「2歳のころだから、おぼえてなくてとうぜんさ。カプセルマシンのまえで泣きじゃくるサキを見つけたときは、シュリとふたりで大きなためいきをついたものだ」
そこで一度お父さんは言葉を切った。
「もうサキをひとりぼっちにはしない。そう心に誓って、シュリと一緒にサキの両手をにぎりしめたんだ」
お父さんが自分の手のひらを見つめる。
「カイトくんとサキが、あの子――サキちゃんの手をにぎるのを見たとき、そのときのことを思いだしてね。気がつけば、ふたりのすがたを、むかしの自分たちに重ねて見ていたんだ」
「いや、父さん、カイトみたいなモデル体型じゃないだろ」
モル兄の言葉を無視して、お父さんは話をつづけた。
「わたしたちに手をにぎられていたサキが、いまは大切な人と一緒にだれかの手をにぎる立場にいる。そう思うと目頭が熱くなって……」
お父さんは話しながら、目頭をぐっと指で押さえた。
「むかしからこうなんだ。心がふるえると、なみだをこらえることができなくてね……サキのなみだもろさは、わたしゆずりだよ」
お父さんが泣きながらいった。
AIASの隊長であるお父さんは、家族以外のまえではぜったいに泣いたりしない。
そのお父さんがカイトになみだを見せた。
それがなんだかカイトを家族として認めてもらえたような気がして、つられてわたしも泣きそうになった。
「ところでカイトくん、サキとはいつハグを――」
「見て! 宝石の雨が降ってる!」
二十歳ぐらいの女の人がさけんだ。
見ると、空からエメラルドみたいな緑色の宝石が降り注いでいた。
「トレミーストーン! まさか――」
カイトが窓ガラスに手をつく。
駐車場に落ちた何千という宝石が、見えない力に引き寄せられるように一か所にあつまってゆく。
そして合体して怪獣のすがたになった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
怪獣のからだには植物のツタがからみついていて、両肩には巨大なバラみたいな花が咲いている。
でも頭には「く」の字に曲がったウシみたいなツノが生えていて、そのすがたは動物と植物を混ぜあわせたみたいだった。
「ガルオォォォ!」
怪獣が空にむかって吠えた。
怪獣とモールの距離は100メートルもない。
もし怪獣が熱線でも吐いたら、まちがいなくモールはこわされてしまう。
「ガル……オ……」
のどを詰まらせるようにうなったあと、からだが半透明になり、怪獣の目が赤色から黄色に変わった。
「コントロールできてない。リンクエラーが発生したんだ」
窓ガラスに手をついたまま、カイトがひとりごちた。
「ガル……ル…………」
ついに怪獣は動かなくなった。
首をうなだれる半透明の怪獣は、まるで大きな置物みたいだ。
「こちら神楽谷。本部、応答せよ」
お父さんが小型通信機でAIASに連絡を入れる。
「現在、怪獣が出現したショッピングモールにいる。怪獣は動きをとめているが、避難が完了するまで、ぜったいに攻撃はするな」
強い口調で指示したあと、お父さんはわたしたちをふりかえった。
「おまえたちも、はやく避難するんだ」
「お父さんはどうするの?」
「店の人と協力して、逃げる人たちの避難誘導をする。いつまた怪獣が動きだすかわからない。だから、おまえたちもはやく――」
「わたしも手伝う」
わたしはお父さんの顔を見て、いった。
「避難誘導なら授業で習ったからできる。だから、わたしも手伝う」
「おれも手伝います」
カイトがいった。
「おれじゃなくて、おれたちもだろ?」
モル兄がカイトの肩に手を置いた。
「父さん、おれも避難誘導を手伝うよ」
「もち、おれもな」
エイジが胸をたたく。
「おまえたち……」
そのとき怪獣がブルッとからだをふるわせた。
その衝撃で駐車場の車が揺れる。
「わかった。マモルとエイジはわたしについてこい。エスカレーターで降りてきた人を南出口へ誘導するんだ。サキとカイトくんは西出口への誘導をたのむ」
「わかった」
「誘導が完了したら、わたしたちもすぐにそちらへむかう」
わたしたちは二手にわかれて、モールの出口にむかった。
「ゲームでつかわれる怪獣は、ネメアが脳波であやつれるように改造されているんだ。ネメアと怪獣の脳がうまくリンクしていないから、あの怪獣は動かないんだよ」
走りながら、カイトが説明してくれた。
「怪獣は液体の状態で特殊なカプセルに入れられて、それをエージェントっていう宇宙人が、指定された場所にセットするんだ。けどネメアのなかにはカプセル代をケチったり、エージェントを雇う金がないやつもいる。そうしたやつらは怪獣を液体じゃなくて、トレミーストーンっていう石に変えて、指定された場所に降らすんだ」
「じゃあ、空から降ってきたあの宝石がトレミーストーンなの?」
「うん。一度トレミーストーンに変えた怪獣をもとにもどすことはすごく危険で、リンクエラーも発生しやすいんだ。あの怪獣はゲームの制限時間がきたら消える。けど、それよりはやくリンク機能の調整が済むはずだ。それまでにみんなを避難させよう」
わたしたちはお店の人と協力して、2階から降りてきた人を西出口へ誘導させた。
「モールを出たら、できるだけ遠くへ避難してください」
「こどもをつれている人は、はぐれないように手をつないでください」
最初は山のようだった人だかりがだんだんと少なくなり、怪獣が動きだすまえにモールからお客さんのすがたは消えた。
「サキ、外へ出よう」
外に出ると、あたりに人のすがたはなかった。
よかった、みんな遠くへ避難したみたいだ。
「サキもはやく避難するんだ。おれは変身して、あいつを――」
「ガルオォォ!」
さっきまで置物みたいだった怪獣が、きゅうにおたけびをあげた。
怪獣のからだが緑色にもどり、目も黄色から赤色に変わっている。
まずい。
リンクの調整が済んで、ネメアがあやつれるようになったんだ。
「サキ、カイトくん、はやくこっちへ」
ふりかえると、避難誘導をおえたお父さんたちが、こちらに走ってきていた。
「すぐにそこからはなれるんだ!」
そのとき怪獣のツノが光り、そこから放たれた光線がネビュラモールに命中。
爆発で壁の一部がくずれ、瓦礫がわたしたちの頭の上に落ちてきた。
視界を覆う瓦礫の雨。
そして耳のなかで反響する、みんなの悲鳴。
一瞬だけどゆっくり流れる時間のなかで、わたしは死を覚悟した。
(つづく)
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