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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第2章 魔道具職人の街と仮面の組織 ラトール編

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第55話 リィナの願い

瞬間、刃と闇が交錯した。

湿った空気に、金属が裂ける鋭い音が弾け飛ぶ。


「くっ――!」

アランは咄嗟に剣を抜き、迫る一撃を受け止めた。

魔力が伝導し、青鋼の刃が白い火花を散らす。

だが息つく間もなく、別の気配が死角から襲いかかる。


「……甘い」


低く冷たい声が、背後から囁いた。

レオンが杖を振り抜く。


「《氷盾展開》!」


氷の障壁が瞬時に生まれ、空間を覆った。

鈍い衝撃音。

氷壁がひび割れ、レオンの肩が壁に叩きつけられる。


「ぐっ……!」


「くっそ……何者だ……!」

アランが歯を食いしばり、剣を握り直す。

その視線の先、闇の中で長い外套が揺れた。

外套の下からのぞく仮面が、淡い光を受けてゆらりと傾く。


「無駄だよ。お前たちの小さな正義ごっこなど、何の意味もない」


「正義ごっこだと?」

レオンが血を滲ませた唇を歪める。

「人を弄んで、平然としていられるお前に……何がわかる!」


「理解する気もないし、必要もない。ただ――」

仮面がゆっくりとアランへ向けられる。

「お前たちが生きて帰る未来は、ここにはない」


「……そんなもん、てめぇに決められてたまるか!」

アランが一歩踏み込む。

剣先に宿る魔力が、青白い光を帯びた。


「今のうちに逃げて! お願い、ここで立ち止まらないで!」

リィナの悲鳴にも似た声が響く。


「何を言って――!」

アランが振り返るより早く、リィナが短剣を逆手に構えた。

瞳は、ためらいも恐れも捨てた覚悟の色を湛えていた。


「……邪魔だ」

外套の影がまた一歩踏み込む。


「やらせない!!」


リィナの短剣が閃光のように走った。

細い刃が、刺客の喉元を掠める。

鮮血が、音もなく空間に散った。


「アラン! レオン!!」

振り返ったその瞳に、必死の決意が宿っていた。

「ここで全員やられたら終わりよ! あんたたちはまだ戦える、私に構わず行け!!」


リィナの声が、石壁に反響して震えた。


「ふざけるな、置いて行けるか!!」

アランは吠えるように返す。

その刹那――


暗がりから別の影が滑り出した。

脇腹を狙う細剣が、躊躇もなく振り上げられる。


「――ッ!」


「《零域式魔術――氷鏡乱葉》!」


砕けた氷の鏡が一瞬で再構成され、幾重にも層をなして宙に広がる。

光を受けた氷片が、鋭い葉のように舞い、刺客を包囲した。


「お前の好きにはさせない……!」


冷気が渦巻き、影の動きを縛り上げる。

だが――


鈍い音と共に、最奥の氷壁に細かい亀裂が走った。

冷気が悲鳴を上げるように軋む。


「……っ、持たない!」

レオンの視界が揺らいだ。


「……俺たちで倒すぞ!」

アランが剣を握り直し、声を張り上げた。

レオンの肩が、迷いと決意で大きく揺れる。


「いいから走れ!!」

リィナが短剣を振り抜く。

銀の軌跡が疾り、敵の頬を深々と裂いた。


「ジャルドから教わった技……見せてやる……!」

低く息を吐き、刃を構え直す。

稲妻が閃光となって刀身に絡みついた。

雷鳴が空気を震わせる。


「《雷鳴連刃・風車》!!」


瞬間、空間が爆ぜるような轟音が遺跡の奥に響き渡った。

リィナの身体が疾風に溶けるように駆け抜ける。

雷撃を纏った刃が敵の胴を薙ぎ払う。


「――がっ……!」


呻きと共に、影が崩れ落ちた。

石畳を焦がす雷光が、まだ尾を引いて揺れていた。

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