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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第2章 魔道具職人の街と仮面の組織 ラトール編

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第54話 リィナの目的

低い声が遺跡の石壁に鈍く響いた。


「リィナ。よくやった。感心するよ。」


「お前が優秀だという噂は、何度も耳にしている。報酬は……弾ませるように伝えておく。」


リィナは小さく笑った。

けれどその瞳は、どこか冷えた色を宿していた。


「任務だからね。そこは……ちゃんとお礼くらい、言ってほしいわ。」


「……そうだな。」

セイラスが薄く頷く。

「では礼を言おう。これでお前の役目も終わりだ。ご苦労だった。」


「――そう。」

リィナは一歩退いた。

その瞳が、決意の色に変わる。


「じゃあ……用済みってことよね。」

静かに告げる声は、どこか張り詰めていた。

「これで最後。私は……組織を抜けるわ。」


瞬間。


空気が、まるで氷が張ったように固まった。

遺跡の奥から吹いた冷たい風が、重く肌を撫でる。


セイラスの微笑がゆっくりと消える。

その視線は暗い底を覗くように、冷ややかに沈んだ。


「……本気で言っているのか?」

言葉は低く、かすかな震えを含んでいた。


「今なら……まだ許せる。」

淡々とした声に、ぞくりとする鋭さが滲む。


「お前の手で……その二人を殺せ。」


静寂が、苛烈な圧力に変わって三人を押しつぶした。

リィナは胸の奥で息を詰めたまま、セイラスを真っ直ぐに見返した。

「いいえ――もう命令は聞かない。」

リィナの声は揺れなかった。

ただ真っ直ぐに、澱みのない言葉を突きつけた。


「……おかしいな。」

セイラスの目が細められる。

その声音には、苛立ちよりもどこか興味深げな色が混じっていた。


「ジャルドのやつは言っていたぞ。お前は覚悟を決めたと。己の力を振るう決意を固めたと。――だが、まさかその矛先が僕らに向くとは思わなかった。」


「あら?」

リィナは小さく肩を竦めた。

唇に浮かんだ笑みは、どこか諦めを含んでいた。


「……もしかして――勘違いさせちゃったかしら?」


わずかに息を吐き、視線をそらさずに続ける。


「私は……生きる覚悟を決めたの。誰かの道具じゃなく、自分の意思で生きるって。」


その言葉は、重くも澄んでいた。

沈黙が落ちた遺跡に、剣を抜く音だけが微かに響いた。

……ふふ」

セイラスが喉奥で、ひどく乾いた笑いを漏らした。


「面白い女だな。――だが、裏切りに報いは必要だよ」


その声が合図だった。

刹那、肌を刺すような殺気が通路を満たす。

石壁にまで震えが伝わるほど、鋭い魔力が膨れ上がる。


リィナは振り返った。

揺らめく魔灯の光の中で、真っ直ぐにアランを見つめる。


「ごめん……でも、ここで終わらせるつもりはない」


その瞳に、もう迷いは一片も残っていなかった。

たとえこの場で命を落とすとしても――自分の意思で立つ。


静寂を裂くように、セイラスの声が響く。


「殺すぞ? あいにく、こちらも遊んでいられるほど暇ではなくてね」


暗い通路の奥で、男の手がゆっくりと魔具に伸びた。

鋭い気配が、夜気のように周囲を覆った。


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