表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第2章 魔道具職人の街と仮面の組織 ラトール編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/251

第34話 古びた魔道具と

ラトールの骨董魔道具店夕暮れの赤い光が、通りに並ぶ古びた看板を一つひとつ照らし出していた。


石畳の路地に沈む影の中、ひときわ古びた木製の扉に、つや消しの真鍮板が打ち付けられている。


《魔導古器 カルドラム商会》

そんな看板を横目に、アランは無造作にドアを押し開けた。古い鈴が、乾いた澄んだ音を立てる。


「リィナ?入るなら先に言えよ。勝手に飛び込むから……」


「あっごめん。ちょっと気になるのが目に入って」


リィナはもう、彼の声をまともに聞いていなかった。


棚の奥――埃をかぶったガラスケース。

その片隅に、色褪せた革の留め具がついた小箱が並んでいた。


その箱を見た瞬間、彼女の表情からいつもの快活さが、そっと抜け落ちる。


「あれ……」


リィナの声は、ひどく小さかった。

肩幅ほどもない木の陳列棚に近づき、震える指先を伸ばす。


アランは首を傾げ、横から覗き込む。


「それ、何だ?」


「……あたしが……昔……」


ガラスの向こうに収まるのは、掌に収まるほどの銀色の円盤だった。

外縁を薄い魔法回路が囲み、中央には青い宝石のかけらがはめ込まれている。

今は亀裂が走り、灯るはずの光はどこにもなかった。


「わたしが子供の頃、唯一貰った魔道具だよ」


声が揺れる。


気づけば、リィナは唇を噛んでいた。


細身の体をかすかに震わせ、懐かしむように、それでいて胸を突かれるように。


「昔スラムに居た頃なんだけど。飢えてて、もう駄目かって思ってた時に、お兄ちゃんが……これをくれたんだ。『お守りだ』って。どんなに寂しくても、これがあれば一晩くらいは凌げるからって……」


アランは言葉を探したが、何も出てこなかった。



ただ、真剣な瞳で彼女を見ていた。



「これって直せるのかな。ジャンク品って書いてあるけど。」

「大切なもの、だったんだろ?直してみようぜ。」


その一言を、アランははっきりと言った。

リィナは目を瞬き、ゆっくり顔を向けた。


「どんなに古くてもガラクタじゃねぇ。――だから、やってみなきゃ、わかんねぇだろ」


彼はおなじみの無鉄砲な笑みを浮かべる。


ガラスケースに視線を戻し、店主を呼ぶべく手を挙げた。


「じいちゃん! これ、ちょっと見せてくれ! 直せるかどうか、試させてくれ!」


リィナの胸に、幼いころの冬の夜が蘇る。

暗闇の中、ひとつだけ小さな光をくれた人。

それと同じまっすぐな声が、今、彼女の隣にあった。


ガラスケース越しに見つめるリィナの指先は、どこか震えていた。

それを無言で見守っていた店主は、長い白髭を撫でながら渋い顔をする。


「それは、もうずいぶん前に壊れたもんだよ。修復しようとした職人も何人かいたが……芯の魔素核が割れてる。直すのは無理だ」


「そんな、無理って……」

リィナは唇を噛む。


アランが一歩前に出た。

「無理かどうかは試してみねぇと!俺らでどうにかできるかもしれない!」


「若いの、気持ちは分かるがな……こいつをいじっても、二度と光は戻らんさ」

店主の声は同情を含んでいたが、リィナは首を横に振った。



「これだけは……お願い。譲ってほしいんだ。……値段は、いくらでも払うから」

静かな、でも決意のこもった声だった。


やがて老人は深い溜息を吐き、棚の鍵を外す。


「……わかったよ。ガラクタだ、くれてやる。だがくれぐれも、無茶はするな。最近魔道具の暴発も増えてる。この店の評判にも関わるからな。」

 

夕闇が深まる中、二人は人通りの少なくなった通りを早足に進んでいた。


目指す先は、錬金術師ヴィルマの工房。低い木の扉に、小さな真鍮の看板が掲げられていた。


《ナリア錬金工房》

ノックの音が木材に鈍く響く。


「――開いてる。入れ」

奥から落ち着いた女の声が届いた。

 

部屋は思った以上に雑然としていた。

机の上には半分蒸発しかけた薬品瓶が並び、壁際には研磨機と魔力計測器が積み重なっている。


リィナは緊張した面持ちで、小箱を両手で抱えたまま歩を進めた。


「ヴィルマさん……お願いがあって来た。これ、直せるか見てほしいんだ」


錬金術師は長い髪を後ろで束ね、無表情に小箱を受け取った。


机の上に置き、ルーペを覗き込む。


「……古い投影用の簡易魔道具だな。核心部の魔素核が……ひどく割れている」



「やっぱり、無理かな……?」



リィナの声はかすかに震えていた。

ヴィルマは目を離さず、淡々と告げる。

 

「理論上は不可能ではないが、今は無理だ」


「えっ……?」


「見ての通り、手が離せない」

視線を向けると、奥の作業台で青白い火花を散らす大型装置が唸っている。


金属の円盤が回転し、幾つもの符文が淡く光を放っていた。


「明日の夜には落ち着く。だが、それまで待てないなら――自分で試すしかない」

 

そう言うと、ヴィルマは机の引き出しを開け、無造作に工具の束を押し出した。


ルーペ、細密ドライバー、魔力調整針、接合用の封蝋。


「必要なものは、ここに揃っている。説明は要るか?」

 

「……いい。自分でやってみます。」

リィナは一度だけ深く息を吐いた。


幼い頃、スラムで何度も拾った魔道具の修理。

失敗すれば命に関わるものばかりだった。


アランが工具を半分持ち、彼女の肩を叩いた。

「よし。宿に戻ろう。ここで邪魔するのも悪いしな」


「直るかわかんないんだよ?」


「言っただろ。やってみなきゃ分かんねぇって」

 今度は、リィナも少しだけ笑った。 

読んでいただきありがとうございます。

間話というか休憩回として書いてます。


良かったらブックマークください!なんてね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ