表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第2章 魔道具職人の街と仮面の組織 ラトール編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/251

第30話 不穏な動き

月が赤く染まっていた。

血のように濁った光が、村の屋根を不気味に照らし出している。

――ごうっ。

破られた柵がはじけ飛び、焔の匂いが夜気に混じった。続けて、獣のようなうなり声があがる。叫び声と破壊音が、深夜の静寂を裂いた。


「なんだ……?」

アランは寝台から跳ね起きた。薄い寝着の胸を押さえる。脈が、ありえない速さで暴れていた。


「アラン!」

襖を開けてレオンが駆け込んできた。肩で息をし、瞳が警戒に細められている。


「村が襲撃されている。盗賊団だ……!」

すぐに剣を手にし、腰の鞘を鳴らして立ち上がる。宿の廊下を走り抜けると、リィナも同じく剣を構えていたが何かに怯えるように震えていた。


 

「鉄牙団……っ。最悪の敵。」

 

リィナが呟く。夜空の下、村の広場に立ち込める煙と炎。その向こうに、闇の影がうごめいていた。異様に膨れ上がった体躯。皮膚に埋め込まれた金属片が赤く光っている。暴走魔道具だ。


「ここを通る荷馬車を襲ったって噂は聞いてたが、まさか……」

「考えてる暇はない。村人が――!」

レオンが先に駆けだす。アランとリィナも後に続いた。


 

広場の真ん中で、叫ぶ老婆に巨漢が迫っていた。肩幅は人の倍はあろうか。筋肉が皮膚を突き破らんばかりに脈動し、赤黒い戦斧を片手に振りかぶる。


 

「ガルバード・バスラ……!」

 

リィナが息を呑む。その男こそ、鉄牙団の頭目だった。

かつてリィナが村を襲った盗賊


 

「どけ……邪魔だ。」

 

低く響く声が、鼓膜に鈍く刺さる。次の瞬間、巨斧が閃いた。

リィナは体が震え、動けない


 「やらせるか――!」

アランが飛び込んだ。剣が火花を散らす。が、重い。振り下ろされた一撃を受け止めた瞬間、腕が痺れ、膝が沈む。


「ふん……虫が。」

 

斧を横に薙がれる。吹き飛ばされる寸前、レオンの氷の盾が割って入った。轟音。盾が砕け、冷気が霧散する。


 

「おい、意識を保て!」

 

「分かってる……!」

 

歯を食いしばり、短剣を握り直す。周囲では村人が逃げ惑い、仲間を呼ぶ声がこだまする。

「待ちなさい!もう犠牲者はみたくない!」

リィナが斬りかかるも、ガルバードは巨腕で払うだけでその攻撃を受け流す。


「無駄だ。強さだけが……正しい。」


 

そのとき。煙の向こうから、短剣を持った影が忍び寄った。ロカ・イェーンだ。獣のように静かに走り、別の村人に刃を振りかける。


「――くそっ!」

 

アランがそちらに走りかけた刹那、ガルバードの蹴りが横腹を打った。空気が抜け、景色が跳ね上がる。土に転がり、視界が真赤に染まった。


「アラン!」

 

リィナの悲鳴。立ち上がろうとするが、足が震えた。目の端に、爆薬を構えるダボンの影が揺れる。笑いながら火薬壷を投げた。


「燃えろぉっ!」

――轟音。


爆風が襲い、レオンがリィナを庇う形で地面に倒れた。

耳鳴りの中、ガルバードがゆっくりと歩いてくる。戦斧を肩に担ぎ、瞳に赤い光を宿していた。

 

「無様だな。坊主ども、、、雑魚は、潰すだけだ。」

 

――嫌だ。

アランは膝をついたまま、震える手を見た。剣が重い。身体が、動かない。


「まだ……動けるだろう。」

その声は、心の奥底で響いた。


(動け。守れ。誰も、失うな。)

 

赤い月が瞳に落ちる。

 

胸の奥に何かが弾けた。


「――ッ!」

 

世界が一瞬、音を失った。血が、逆流する感覚。気づけば立ち上がり、剣を構えていた。視界が赤に染まり、周囲の気配が鋭く研ぎ澄まされる。


 

「まずい!このままじゃ昨日の二の舞に、レオン!アランが!」

    


リィナが叫ぶ。


アランの背から溢れる気配が、空気を震わせていた。

「ぐあぁあぁ、守る!絶対に守る!」

威圧が乗ったアランの叫びが咆哮のように解き放たれた。

空気が一瞬で重くなる。盗賊たちの動きが止まった。全身に、圧倒的な恐怖が刻まれていく。


「な、なんだ……この気配……ッ!」


ロカが震え、ダボンが目を見開いた。ガルバードさえ眉を寄せ、一歩だけ後退する。

アランは踏み込む。足元の土が抉れ、赤い残像が疾る。


 

「――閃撃ッ!!」


 

剣閃が走った。刹那、ガルバードの斧が弾かれ、分厚い胸鎧が裂ける。血飛沫が赤い月に舞った。


「が……ッ!」


だが、完全に倒しきれない。巨躯が膝をつきながらも、なお立ち上がろうとする。


「止まれッ、アラン!!」

レオンの声が響く


「アランお願い、もう大丈夫だから!」

 

リィナの叫びが届いた。だが、視界が霞む。理性が遠ざかる。心が、燃え尽きそうになる。


(このまま……殺す。全部……)


「「アラン、止まれ!!」」


そのとき、震える声が耳に届いた。


「アランだめだよ、止まってよ。」

リィナが立っていた。手には何も持たず、震える足でこちらに走ってきていた。


「もう、いい……!これ以上、無茶はやめて、もう倒したのよ」

赤く濁った視界に、涙を浮かべた彼女の顔が映った。


「……リィナ。俺は……」


声が震える。

胸の奥に、温かい何かが落ちた。

「……バカ犬。」


その一言で、視界の赤が消えた。

――ああ。そうだ。

自分は、独りじゃない。


「……リィナ……」


剣を下ろす。足元の巨漢が息を荒くして倒れてるのを見届けた。

戦斧が土に沈んだ、ようやく夜が静かになった。


村の広場に、再び月光が戻ってきた。


「……終わった、のか?」

レオンが肩で息をつく。氷の魔法で数人を拘束し、残りは逃げ去っていた。アランは剣を杖に、膝をついた。全身が鉛のように重い。だが、心は不思議に穏やかだった。


「みんな、ごめん。俺はまた。」

アランは呟いた。視線を上げると、リィナが泣き笑いの顔でこちらを見ていた。

「……一人で突っ走って。私たちもいるんだからね。帰ってきてよかった。」


レオン 「全く……自分勝手は治らないな。」


リィナが涙を拭い、剣を拾う。

 

「次は……ちゃんと並んで戦うから。」


アラン 「俺も、もっと信頼しないとな。」


赤い月が、夜空に沈んでいく。

血に濡れた地面の上で、三人は立ち尽くしていた。


それでも、その肩は確かに支え合っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ