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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第2章 魔道具職人の街と仮面の組織 ラトール編

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第28話 仮面の男再び

草原を越えた先に、薄暗い林道が口を開けていた。

陽は傾き、葉擦れの影が道を染める。焦げつくような土と血の匂いが、戦いの余熱を思い起こさせる。

「随分……やるもんだね、あんたら。」

リィナが肩を揺らして息を吐く。背には幾筋もの小さな傷が走り、赤黒い血が滲んでいた。


「これでもまだまだ先があるとはな。」

レオンが呆れたように呟き、杖の先を土に突く。先ほどまで続いていた魔物の襲撃は、一向に勢いを弱める気配がなかった。


それでも――進むほかなかった。

物資を届ける。それが依頼だ。誰も口に出さなかったが、この異様な魔物の動きの裏に何かがあるのは誰の目にも明らかだった。


空は赤く、夏の夜の匂いが満ちていた。


そのときだった。


林道の奥――村の手前。

朽ちた古木の根元に、一つの影が立っていた。


全身を黒い法衣に包み、顔には黒い仮面。

歪んだ意匠の仮面の目孔から、深い深い闇のような光が覗く。


「……誰だ?」

レーネが一歩前に出る。

剣を抜き、澄んだ金属音が空気を震わせた。


仮面の男は返事をしない。

代わりに、低く喉を鳴らすような声が林に染み込む。


「元朱猿騎士団の……面倒だな。」


その声に、レーネの頬が強張った。

「何を知っている……!」


言葉を待たずに、仮面の男は手を掲げた。

その掌に、赤黒い炎が蠢き、形を変える。


「退がれッ!」


次の瞬間、炎の奔流が放たれた。

轟音が林道を満たし、空気が一気に熱を帯びる。


アランは咄嗟にリィナの肩を引き、地面に伏せた。

頭上を灼熱の衝撃波が通り過ぎる。背が焦げ、土が焼ける匂いに目が滲んだ。


くそっ……こいつ……!


レーネとシャイナが同時に駆け出す。

剣と短剣の双撃――二つの閃きが、仮面の男に向かって交差した。


だが、男は一切の迷いなく身を翻す。

黒い法衣が風を裂き、刹那に躍るようにその場を離脱。


 「速い……!」


レーネの剣が空を斬り、シャイナの刃がかすめる寸前、男の指先が小さく円を描いた。


 次の瞬間――


ゴッと音を立てて爆ぜた火花。

赤黒い炎が地を這い、二人の足元へ舌のように伸びる。


「っ……!」


レーネが即座に後退、シャイナが跳ねて距離を取る。

だがその間にも、仮面の男の指は次の魔法を編んでいた。


魔力の軌跡が歪んでいる。

――ただの火ではない。何かが混じっている。


「この魔法……普通じゃない……!」


炎はまるで生き物のように跳ね、螺旋を成して空へ昇る。


抑制の利いた一撃――だが、それでも先輩たちの動きを容易に封じる力があった。


「アラン、下がれ!」

レオンが声を上げるが、視界の端でレーネの姿が揺らいだ。

(……間に合わない!)


アランは無意識に飛び出した。

剣を逆手に構え、盾代わりにかざして走る。

恐怖はあった。だが、それ以上に――仲間を、無残に炎に呑ませたくなかった。


「無茶よ!戻って!」

リィナの悲鳴が耳に届く。


仮面の男の空洞の視線が、ゆっくりとアランを捉えた。

瞬間、炎の流れがわずかに乱れる。


そこに剣を叩き込み、渾身の力で払った。


衝撃が腕にのしかかり、意識が白くなる。

だが次の瞬間、炎は霧散した。

仮面の奥から、かすかな嘲りにも似た息が漏れる。

「……またこの小僧か。」

その目が、アランを射抜いた。

何かを確かめるように――あるいは、思い出すように。


そして次の瞬間には、掌に収めていた小さな黒い結晶を懐に収めると、背後へ飛んだ。

「追え――!」

レーネが叫ぶが、仮面の男の足は地を離れていた。

炎が再び巻き上がり、視界を閉ざす。

熱と光の嵐が一瞬の壁を作り、消える頃には、その影はもうなかった。


「……何だったんだ、今のは……!」


レーネは剣を握りしめたまま、荒い息を吐く。

アランはその場に膝をついていた。

剣を支えに立ち上がろうとするが、腕が痺れて動かない。

「……アラン、馬鹿……!」

リィナが駆け寄り、怒鳴るように言った。


「リィナが駆け寄り、顔を上げさせるように手を伸ばした。

 その瞳は怒りと安堵が入り混じり、滲むように揺れていた。


「……何で無茶するのよ……っ。死ぬところだったじゃない!」


声が震えた。

アランは俯き、言葉を探す。

喉が詰まって、何度か唇が動いた。


「……信じたんだ」

小さく、途切れ途切れの声。

「……一瞬でも……隙を作れれば……きっと何とかできるって……」


リィナは言葉を失い、視線を逸らした。

唇をきつく噛む。

肩がかすかに震えていた。


「……バカ……」


それ以上は何も言えずに、彼女は目を閉じた。


「……信じて…か。」


背後で、レオンが呟いた。

手のひらに、氷の結界を張ったまま。

その顔にあったのは、苛立ちでも失望でもなく――静かな安堵だった。


「……行こう。村に急ぐ。」


村の門が見えた頃には、もう陽は完全に沈んでいた。

瓦屋根の家々に灯がともり、茜と藍が混ざる空に、細い煙が昇っていた


読んでみていかがでしたか?


明日も元気に投稿させていただきます!

良かったら、ブクマよろしくお願いします。

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