第27話 異変は続くモンスター増加傾向!?
陽が高く昇り、空はどこまでも青く澄んでいた。
メルティ村へと続く街道には、乾いた土と青草の匂いが混ざり合い、初夏の風に運ばれてくる。
アランたち三人は「朱ノ花」の四人と歩を揃えていたが、どこか落ち着かない空気があった。
リィナは先ほどからほとんど口を開かず、ときおり視線を遠くへ投げるように村の方角を見やっていた。
気にかかっていたアランが、そっと声をかける。
「……どうした、リィナ?」
振り向いた彼女は、一瞬だけ笑みを作った。
けれど、それはすぐに消えてしまう儚いものだった。
「ん? 何でもないよ。ただ……村って言葉を聞くとね。ちょっと、思い出すことがあるだけ。」
その声の終わりはかすかに震えていた。
目は今いる街道ではなく、ずっと遠いどこかを見つめている。
アランはしばらく視線を注いだが、それ以上は何も言わなかった。
彼女の胸にあるものを、無理に言葉にさせてはいけない気がした。
小さな沈黙が二人のあいだに落ちる。
そして、気づけば蝉の声が風に溶けていた。
アランは息をひとつ吐くと、顔を上げた。
目の前に広がる青い空を見つめるように、歩を進める。
昼も近づいたころ、道脇の草原がざわめいた。
「止まれ。」
先頭を歩いていたレーネが鋭い声を落とす。剣の柄に手をかけると、草むらから緑色の影が飛び出した。
グラストウィスプが三体。
小さな体が弾むように跳ね、鋭い爪を見せる。
「前衛、下がるな。続いて来る!」
レーネの号令と同時に、フラットスネークが地を這い、うねる青い影が足元を狙う。
「後衛は援護!」
シャイナが双短剣を抜き、音もなく草むらへ滑り込む。
アランは剣を構えた。
「くっ……!」
襲いくるグラストウィスプを一撃で弾くが、すぐに二体目が回り込む。反射的に斬り返し、斜めに跳んだ敵を捉えた。しかし剣の重みが腕に食い込む。
(まだ……やれる。けど……息が切れるのが早い……)
全身に汗が噴き、剣を振るたび視界がちらつく。
「アラン、右!」
リィナの声に、はっとして身を引く。
フラットスネークが舌を伸ばし、そこに赤い光が一瞬、走った。
「おかしい……普通、こんなに興奮しない……」
レオンも気づいていた。あの赤い光。魔物の目が、血走っていた。
「このままじゃ……搬送物が間に合わない。」
レーネは冷静に全体を見渡し、声を張り上げた。
「急ぐぞ! こいつらを片付ける!」
敵の数は減らない。ラグノ=アリカンが群れに紛れ、毒の舌を閃かせて突進してきた。
「アラン、下がれ!」
レオンが杖を掲げ、氷の結界を作る。アランは歯を食いしばり、それでも一歩前に出る。
(俺だって……できることがある。)
剣を握る手に力を込め、最前列のグラストウィスプを押し返す。
「……さすがだな。」
レーネがちらりと振り返り、低く言葉を落とす。
「後衛もいい動きだ。……なかなかやるじゃないか。」
そのわずかな一言に、アランの胸がじんと熱くなる。
だが、朱ノ花の面々が互いに目配せを交わしたのを、彼は見逃さなかった。
(この新人たち……最後まで持つのか?)
そんな不安が、一瞬だけ空気に滲む。
決着の刹那。
草むらから低い唸りが走った。
一匹だけ残っていたフラットスネークが、鋭い牙を剥き、しなる体を弓のようにしならせて跳躍する。
「レオン、危ない!」
リィナが叫び、迷いなく短剣を抜いた。
銀の刃が唸りを上げ、夜気を切り裂く。
乾いた音がして、刃は蛇の喉を正確に貫いた。
ぬるりと血がこぼれ、レオンの足元を赤く染める。
「……助かった。」
振り返ったレオンの瞳は、淡々としていながらも、かすかに驚きと礼の色を宿していた。
リィナは肩で荒く息をしながら、それでも勝ち気に笑う。
「ふふ……油断しないでよね。あんたが倒れたら面倒なんだから。」
「当たり前でしょ。仲間なんだから。」
残骸となった魔物の死骸から、じわりと赤い光が漏れた。
アランは肩で息をしながら、その不気味な輝きを見つめた。
(何かが起きている……)
空気は、陽の下にあるにはあまりに冷たく重かった。
だが彼らはまだ、それがこの先の災厄の前触れであることを知らない。
読んでいただきありがとうございます。
道中の異変を書いて見ました。
レーネ達の活躍が薄いですかね?
このあと12時にまた、投稿します。
よろしくお願いします!
感想とかください。跳ねて喜びます、




