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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第2章 魔道具職人の街と仮面の組織 ラトール編

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第7話 夜明けを待ちながら

ラトールの石畳を、一行はゆっくりと歩いていた。


両脇には魔道具の看板が立ち並び、色とりどりのガラス細工や瓶詰めされた怪しげな素材が露店にずらりと並んでいる。


日が沈む頃の淡い光が硝子を透かし、きらきらと宝石のように揺れていた。


通りを抜ける夜風には、薬草と古びた魔素の匂いが混じる。


「……なんか、王都とは違うな」


アランが周囲を見回しながら、ぽつりとつぶやく。煌びやかな装飾も、ざらついた市場の活気も、どこか異質に感じられる。


レオンは肩をすくめ、小さく笑った。


「錬金都市ラトール。魔法産業の中心地だよ。

王都よりも、こっちのほうが“魔法”って感じがするだろ?」


アランは曖昧に頷き、通りを横切る機械仕掛けの小動物を目で追った。

ぜんまいで動く金属の小鳥が、かちりかちりと硬い足音を立てて歩くのが、なんだか夢の中の景色のように思えた。


――不思議な街だ。


空が紺に染まるにつれ、街は少しずつ熱を手放し始めていた。

石畳の通りにはまだ灯りがともり、遅くまで開いている錬金素材の露店からは、香草や薬液の匂いがほのかに流れてくる。


家々の窓には橙色の光が灯り、影絵のように人の姿が揺れていた。


アランは荷物を背負いながら、隣を歩くレオンに目を向けた。


「……そういえばさ。なんか、新鮮だな。同じ宿に泊まるのって」

レオンは一瞬きょとんとしたが、すぐに口元をゆるめた。


「前まではバラバラだったからね。まとまった依頼もなかったし。……でも、今は“パーティー”だから」

「へぇー、珍しくそれっぽいこと言うな」


「言っておくけど、これは事実であって感傷じゃないから」

肩をすくめるレオンに、アランは小さく笑った。


「でもまあ、なんかちょっと……いいよな、こういうの」

レオンは足を止め、ふと思い出したように空を見上げた。


暮れ残る光と、通りの魔導ランプが交わるその色は、どこか懐かしいようにも見えた。


「そうそう。十日後に“魔導市”が開かれるらしい。年に一度の大イベントだってさ」


「魔導市か。面白そうだよな」


「あぁ。錬金術師も魔法研究者も職人も全部集まって、珍品の展示や取引もあるって話だ」


「せっかくだし、見てから帰るのも悪くないな」




レオンは軽くうなずき、通りを行き交う人々に視線を移した。

買い物袋を抱えた商人、肩を寄せて歩く旅人、急ぎ足の少年。

それぞれがそれぞれの用事を抱え、夜の街に溶けていく。


「手紙は明日届けるとして――それが終わったら、少しこの街を堪能してからでも遅くない。昇級試験までの調整も兼ねてね」


「おっ、それならこの街でちょっくら稼ぐか!」


「はいはい、調子に乗るとまた怪我するからな」



そんな調子で言い合いながら、二人は通りを奥へ進む。

夜のラトールは、王都のような洗練ではなく、どこか柔らかいざわめきをまとっていた。


石畳を踏みしめながら、二人は並んで歩く。遠くの塔の鐘が、時を告げるように低く鳴った。


「さて、宿探すか!さすがに野宿は勘弁な!」


「そもそもこの街、野宿したら職質されると思うけど」


レオンが地図を広げると、いくつかの宿の印が目に入った。

その中でも、目を引いたのは二軒の名前。


「『夜帳亭』と『夜明け亭』か……対になってるみたいで面白いな」


角を曲がると、まず目に入ったのは夜帳亭だった。

新しいレンガ造りの外観は整然としていて、磨かれた看板が淡い光を反射している。


通りに背を向けて、用心深そうに出入りする客の影がひとつ見えた。


「んーきれいだけど、なんか嫌な感じ?」


「うん。きっとベッドはきれいに整ってて、食事は栄養バランスだけはいいやつ。……高そうだな、特に」


続いて、通りの奥に見えたのが夜明け亭だった。

木造の建物はところどころ色褪せているが、窓からこぼれる灯りは、まるで誰かの家のようにあたたかい。


軒先には花の鉢が並び、板張りのドアには手描きの文字で「空室あり」と書かれていた。


近くの路地では、女の子が母親に手を引かれて、家路を急いでいた。


その小さな足音が遠ざかる頃、アランがすかさず声をあげる。


「お!断然俺はこっちだな。……ちょっとボロいけど、安そうだし、ああいうの、落ち着くよな」


「まあ、汚くなければ問題ない。今は手持ちも少ないし、ここは“暖かい”宿な感じがする」


「は?」


「いや、気にするな」


アランが苦笑し、荷物を持ち直した。

どこからか、暖炉の薪がはぜる小さな音が流れてくる。


王都のような洗練はない。

けれど、この宿には人の時間が積もったような匂いがあった。


レオンが扉の前で手をかけると、アランがぼそっと呟く。


「夜明け亭、ね。なんか、いい名前だな!メシ美味いかな?」


「また、アランはそんなことばっかり言ってる」



木の軋む音と共に、外の冷気とは違う、あたたかな空気が二人を迎え入れた。



読んでいただきありがとうございます。


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