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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第2章 魔道具職人の街と仮面の組織 ラトール編

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第4話 拾い物稼業

木漏れ日の差す雑木林の中。湿った落ち葉と小枝を踏みしめるたび、鋭い足音が交じる。

アランは息を整える暇もなく、目の前に迫った最後の一体へ踏み込んだ。

「……これで終わりだ!」


低く吐き出すように言い放ち、渾身の一太刀を振り抜く。

甲殻を割る鈍い衝撃とともに、ドリルクロウアントが短い悲鳴を上げて倒れた。


剣をくるりと回し、勢いを殺さずに鞘へ収める。

視線はすぐ奥へ――

逃げ去る大きな影が、枝葉を割って走り去っていくのが見えた。


「……これで八体目か。奥に一体、逃げたな」

肩で荒く息を吐きながら、その遠ざかる気配を追う。


「追うのはやめとけ」

低い声がすぐ隣からかかった。レオンは片膝をつき、倒れた魔物の腹を慎重に解体していた。

手際は鮮やかだ。小さな氷の刃で甲殻を切り裂き、腺を摘出する。


「怪我してないだけ上出来だ。深入りすれば……」

 

その奥――生い茂る草葉の影。

揺れる枝の向こうに、二つの人影がひっそりと身を潜めていた。

「……ったくよ、数多すぎだろ。なんで雑魚の群れ相手に、わざわざ真面目にやってんだか」

低くぼやいたのはバロウ。軽装の鎧を軋ませ、苛立たしげに腰を下ろす。


「依頼でもねぇのに命張って、素材解体までご丁寧にやりやがって……」

隣のクレミーは、飽きたように草をつまんで口元でちぎる。


「ま、そのおかげでこっちは楽して稼げるわけだし。黙って拾い物してりゃいいでしょ」

鼻で笑うように肩をすくめた。


バロウは苦々しげに吐き捨てながらも、口の端だけはわずかに吊り上がる。


「だな。おこぼれ集めて納品するだけで小銭が入る……これが“レイジークリケッツ”流ってやつだ。働かずして食う。最高だな」


視線を戻せば、雑木林の中央ではアランとレオンが淡々と作業を続けている。

アランは風で散らばった虫の翅を払い落とし、剣先で地面をつついて残骸を確認していた。


「素材、ちゃんと残ってるか?」

「問題ない」

レオンはしゃがんだまま、慎重に甲殻を切り開いていた。

「このエコーホッパー、構造がややこしいと思ってたけど……慣れると案外単純だな。前は一匹さばくのに手間取ったが」


小さな氷刃を操作する指先は迷いがない。

「だな。俺も、どこに魔核が埋まってるかわかってきた。……前よりは、ずっと手早く動ける」


アランが小さく息をつき、笑みを浮かべた。

「少しは成長してるってことか」

「少しじゃない」

レオンが淡々と答える。


アランの足元に真っ赤な魔石が落ちていた。

「レオン、これも素材か?」

「魔力を帯びてるな。いつのまにそっちに」


「どのみち俺たちだけで狩りを続けるなら、無駄を削ぐしかない。……それができてるだけで十分だ」


互いに確認し合いながら、解体の手は一度も止まらない。


静かな自信と、以前にはなかった余裕が、言葉の端々に滲んでいた。

そんな二人を、草陰のレイジークリケッツは呆れたように眺めている。

「……はぁ。ほんと真面目ってのは損だねぇ」

クレミーが欠伸をかみ殺し、だらしなく伸びをする。


バロウは満足げに息を吐き、草むらに背を預けた。

「今日もせいぜい派手に働いてくれりゃいい。俺たちは後でちゃっかり回収して帰るだけだ」


真面目やり取りの背後で、レイジークリケッツのふたりは、なおも草陰に身をひそめたまま、次の“拾い時”をうかがっていた――。

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