表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第2章 魔道具職人の街と仮面の組織 ラトール編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/251

第1話 手紙を届けるだけの旅

朝の光に照らされながら、アランたちは石畳の街路を抜けて、いつもの冒険者ギルドへ向かっていた。

ラトールの街へ向かう前に、道中でこなせそうな依頼がないか、確認するための軽い立ち寄りだ。


市場にはパンの香りが立ち込め、行き交う人々の笑い声が風に乗っていた。

屋根の上では猫が丸くなり、遠くの塔の鐘が柔らかく一日の始まりを告げる。

どこを見渡しても、今日もリュミエールは変わらず――平和だった。


「よし、今日も平和だな! さぁ、ラトールに行くか!」


アランが明るく言い、レオンがわずかに笑う。


けれどその視線の先、王都の中心にそびえる王城は、朝の光の中で無言のまま静かに佇んでいた。


あの塔のどこかから、誰かに見られているような感覚が拭えない。


それは気のせいかもしれないし、そうでないかもしれない。


だがアランは振り返らなかった。


背中に視線を感じながらも、足取りは軽い。


ギルドの掲示板前は、朝早くも多くの冒険者たちで赤ついでいた。経験を重ねた飛び抜けた装備の者から、アランたちと同じような新人冒険者まで、群集のなかにはさまざまな黒線が見えた。

「……多いな、朝から」


アランがつぶやき、人潮の随間を抜いて掲示板に目を通す。中央には、ひときわ目を引く赤枠の依頼が貼られていた。


■魔獣群れの出現情報(調査・討伐)

付近村落にて目撃例多数。中規模以上の個体が含まれている可能性あり。

∙Bランク以上の冒険者を優先。無許参加は危険のため非推奨。

依頼主:ガルデオン領警備団


「うわ!やっかいの出てるな」


思わずまゆをひそめるアランに、隣で眺めていたレオンが腕を繋ぎ、折り込むようにしゃべりだす。

「魔獣の群れか……採取系より時間はかからないが、こっちも味方が重いな。特に昇級前の身でやるもんじゃない」


「まぁ遭遇しなきゃ問題ないだろ!道中スルーできればいいさ」


笑って言ったアランに、レオンは危険を感じたように顔を中つまびらせた。


「さっき言ったばっかりだろ。怪我の具合もさほど戻ってないし、無理は禁物だ」


「ぐっ……そこは今、ふれんなよ」

アランが肩を回してみせると、まだ劣化した感覚がわずかに残っていた。


そのやりとりに割って入ってきたのは、リゼットだった。


「レオンくんの言う通りよ。無茶はしないこと。いい?今回の目的は『手紙を届ける』こと。この役目で死ぬなんて、あってはならないわ」


「わ、わかってるって……」


「それに、Fランクの昇級試験も近いのよ。ここで体壊して受けられなくなったら、それこそ本末転倒ね」


「うぐ……返す言葉もねぇ……」


アランが気まずそうに後頭部をかいていると、レオンはわずかに口元を緩めて小さく微笑んだ。

「まあ、道中で手頃な配達依頼でもあれば拾うけど……なければ、そのままラトールに向かおう。手紙が最優先だ」


掲示板をざっと見渡し、結局、めぼしい依頼が見つからなかったことを確認すると、一行はギルドを後にする準備を整えた。

荷をまとめ、ギルドの入口まで来たところで、背後から小気良い足音が響いた。


「ちょっと待った!」

振り返れば、リゼットがこちらへ歩いてくる。すでに身支度を終えたアランたちを見ると、她は満足げに顔を縦に振った。


「ラトールへの道は短いようで長いわ。油断しないで、くれぐれも無茶はしないこと」


「わかってるって。ちゃんと『手紙を届けるだけ』の旅さ」


アランが尻袋を辞しげに打ちたたくと、リゼットはため息交じりに苦笑した。


「本当に信用していいのかしらね、その顔……今からでも別のパーティに……」


「ひどっ!」


笑みを浮かべたまま、リゼットはさらに言葉を重ねた。


「……頼んだわよ、未来の大英雄さんたち。」


その声に込められたのは、過剰な期待でも厳しい評価でもない。

信頼と願い――迷いのない、真っすぐな想いだった。


「ラトールに手紙を届けて、それが終わったら、ちゃんと戻ってきなさい。……ふたりとも、無事にね。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ