第2話 気に食わない魔術師
冒険者ギルドまできた、アラン。
合格できるかな?
リゼットの案内で、アランは地下訓練場の扉をくぐった。
天井から吊るされた魔導灯が青白く煌めき、石畳の広い空間には、すでに木剣の音が響いている。
「はっ! やあっ!」
数人の先輩冒険者たちが、訓練用の模擬戦を行っていた。鋭い動き、息の合った連携。アランは思わず足を止め、その技術に見入った。
(すげぇ……やっぱり本物の冒険者は違うな)
その横では、今日一緒に登録に来た3人がそれぞれの表情で訓練の様子を見守っている。
細身で長身、銀灰の髪を肩で揺らす少年——レオン・ヴァルトハイト。
顔立ちは整っているが、どこか冷めた目をしており、周囲に興味なさげに立っていた。
その隣に立つのは、ハーフエルフの少女——ティナ・エルドレイン。
栗色の長髪に尖った耳。腕を組んでレオンを横目で見ながら、何やらムスッとした表情を浮かべている。
そして最後は、筋肉質な体格と狼のような耳をもつ獣人の青年——ドラン・マグノス。
口元には常に笑みを浮かべ、肩を回しながら準備運動をしている。
「今日は4人、登録に来たのね。じゃあ、試験を始めるわね、最初は獣人のあなたから」
リゼットが書類を確認しながら言った。
「へい、任せてくれ嬢ちゃん!」
ドランが豪快に笑いながら前へ出る。
試験内容は、訓練用ゴーレムとの模擬戦。攻撃・防御・反応の三項目を見られる。
「うおおおおおっ!!」
ドランは戦闘開始と同時に突っ込んだ。ゴーレムの木製の拳が振り下ろされるも、それを軽々とかわす。
「はいよっと!」
軽い足運びでゴーレムの背後を取り、飛び上がりながら拳を叩き込む。
ドガッ!!
振り抜かれた打撃に、ゴーレムの上半身がぐらついた。
リゼットが少し驚いた表情でつぶやく。
「パワーも反応も十分よ、合格」
「っしゃあ! やったぜ!」
アランは獣人のスピードとパワーには、ただ圧倒されるしかなかった。あいつと一戦やってみたいな。
「じゃあ、次はアランくん。どうぞ」
「はいっ!」
アランは緊張と興奮を胸に、木剣を握り締めて立ち上がった。
訓練用ゴーレムが起動する音が響く。アランは深呼吸一つして、構えた。
「うおおおおっ!」
木剣を握り、一気に踏み込む。真正面からの斬撃をゴーレムが受ける。
ギンッ!
カンッ!
打ち込まれる剣筋は荒削りながらも力強く、攻撃と退避の判断も素早い。
アランの動きに、見学していた先輩冒険者たちから小さく感嘆の声が上がった。
「新人にしちゃ悪くないな」
「いい踏み込みだ、かなりやりそうだな」
「あの連撃はいい威力してるぜ」
リゼットは冷静に観察し、軽く頷く。
「攻撃精度、反応、防御、すべて基準値以上。合格よ」
「よっしゃああああ!!」
「次、レオン・ヴァルトハイト」
アランが通路に戻ると、足音が静かに響いた。
冷たい空気をまとって、レオンがゆっくりと訓練場に入ってくる。
黒いローブの裾が揺れ、銀の瞳が目標を射抜くように見つめた。
「魔術試験は遠距離判断。属性制御の評価がメイン。目標、中央のゴーレムに一撃を加えて」
「了解」
レオンは静かに杖を構え、詠唱を紡ぐ。
「微細振動、凝結せよ――《零域式魔術・貫穿針》」
鋭い氷の針が放たれ、ゴーレムの関節部に突き刺さった。
一瞬で周囲が凍りつき、ゴーレムの動きが完全に停止する。
その美しさと威力に、一瞬その場の空気が止まったような錯覚すら覚える。
リゼットの目がわずかに見開かれた。
「……正確な標的、魔力量も安定、威力も充分。文句なしね」
「ありがとうございます」
レオンはそのまま通路へ戻り、黙ってアランの隣に立つ。
「最後、女性のあなたね」
「了解!」
ティナが勢いよく前へ出る。
「《紅の矢よ、走れ!〈フレイムアロー〉》」
赤く輝く炎の矢が、次々とゴーレムに突き刺さる。
攻撃魔法だけでなく、瞬時の水属性切り替えで冷却するなど、多彩な魔力制御を見せつけた。
ゴーレムのコアに的確に一撃が入り、動作が停止する。
リゼットが端末を確認しながら言った。
「全員合格ね。基礎戦闘力、必要水準に到達。Gランク登録を許可するわ」
「なあ、お前すげーな! さっきの氷の針、見事だったぜ!」
隣に立つレオンに声をかける。
レオンはちらりと視線をよこした。
「……お前は、あの体当たり剣士か」
「体当たり……!?」
「勢いは十分だった。ただ、その勢いを制御できなければ、敵に利用される。……少し惜しいね」
「なっ……!」
「ちょっと、いくらなんでも初対面で失礼すぎるでしょ。アンタ、いつもそんな感じなの?」
「まあ、お前のような前衛がいれば、後衛の僕は助かる。盾には悪くないかもね」
明らかに見下した物言い。アランはぐっと拳を握る。
「おいおい、初対面で随分だな。俺は盾よりも矛を目指してんだよ」
「……そう。 じゃあ、もう少し頭を使って動いてほしいものだね、“未来の英雄”さん」
空気が一気に張り詰める。
リゼットが軽くため息をつきながら、間に入った。
「そこまで。新人同士で牽制し合うのは結構だけど、実力は依頼で見せなさい」
二人は不満げに目を逸らす。
「じゃあ、次は――属性検査と魔力測定よ。どんな素質があるか、ちゃんと見せてもらうわ」
〜間話〜
(ギルドの休憩所。ドランが豪快に肉まんを頬張っている)
ドラン「んーっ! ここの肉まん、まじで最高だぜぇ!アラン兄貴も食ってみろよ!」
アラン「いや、さっき飯食ったばかりだし……」
ティナ「……ちょっと、あんた。そんなもんばっか食べてるから、魔力感知が鈍るのよ」
ドラン「へ? 魔力感知って、腹の具合と関係あるのか?」
ティナ「ないけど! 言いたくなるくらいバカなのよ、あんたは!」
ドラン「な、なんだよぉ、ティナの魔法だってこの前――おっとぉ」
(ティナが杖をピクッと構える)
アラン「おいおい、やめとけよティナ……それ、火の魔法じゃないだろうな」
ティナ「ちょっとだけ炙るだけよ。軽く、炭になる程度に」
ドラン「ギャーッ!? それ軽くじゃねぇー!!」
第2話読んでいただきありがとうございます。
キャラが4人も新しく出てきました。
無事合格しました!アランよくやった!
次回は属性検査!アランは魔法使えるのかな?
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初めての作品になるので、今後の参考にもしたいです。
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