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第28話 閉ざされた正義


カストール・オーベルは、騎士たちに両脇を固められながらも、足を止めてアランとレオンを一瞥した。

その目には、もう敵意はなかった。代わりに、どこか懐かしむような、遠くを見つめるような光が宿っていた。


「――おい、ガキども」

その声に、アランとレオンが思わず顔を上げる。


「……礼を言っておく。お前らの目を見て、ちっとだけ思い出した。

 昔、俺にも……ああいう時代があった気がする」

ほんの一瞬、苦笑のような、照れ隠しのような笑みを浮かべる。


「このまま腐るな。道を誤るな。……そして、誰にも負けるな。

 俺みたいになるなよ、“まっすぐなままで、強くなれ”」


そう言い残して、再び前を向いた。

鎧のきしみと足音だけが、石畳に消えていく。


そして、騎士団の奥へと――カストール・オーベルの背は、静かに闇へと溶けていった。


「……すべての責任は彼に問う。それが、“落としどころ”よ」


クロエ・シルヴェリスの言葉が、空気に沈み込むように響いた。

夕暮れの風が、どこか冷たく吹き抜ける。


アランは門の前に立ち尽くし、拳を握ったまま動かない。

横にいたレオンが、そっと彼の肩に手を置いた。


「……これで、終わったのか?」


アランの問いに、レオンは沈黙で返す。

それは、言葉より重い否定だった。


黒鉄の門が、静かに──だが確かな重みをもって閉ざされる。


少しして、アランはぽつりと漏らす。

「なあ……さっきのフォーンって騎士。やけにあんたに視線が刺さってた気がするんだが……知り合いか?」


レオンは短く息を吐き、やや迷った末に口を開いた。

「……伯父だよ。父の弟。銀蛇騎士団の副団長──それが、あの男だ」


「マジか」

アランは驚いて目を見開く。

「驚くのも無理はない。俺が家を出てから、親族だと明かしたことは一度もない」

「なんで隠してたんだ?」

レオンは少し空を仰ぎ、静かに語る。


「俺は、家では“落ちこぼれ”だった。魔術の才も、家柄に見合う品位もないと烙印を押されて……七歳のころには、もう屋敷で肩身が狭くて仕方なかった」


「……それで、家を出たのか」


「うん。形式上は“留学”ってことになってるが、実際はただの厄介払いさ」


アランはレオンの横顔を見る。

普段はどこか冷たい印象のその表情が、今は少しだけ影を帯びていた。

「それうだったのか。」

「フォーンは、俺を見下したことはなかった。ただ──何も言わなかった。帰ってこいとも、もう来るなとも。……それが答えだと思ってる」


しばらく沈黙が流れる。

やがて、アランがふと思い出したように言った。

「さっきのクロエって女、俺のことを“アレン”って呼んだ。……“オーガストレイ”って名前、聞いたことあるか?」


レオンの眉がわずかに動く。

「……オーガストレイ家。七大公爵家のひとつ、“桜虎騎士団”を擁する名門だ。だが…その家の息子が庶民に紛れてるなんて話は聞いたこともない」

(カストールも似てるとかなんか呟いてたが、まさかな。)


「そうだよな……でも、名前を聞いたとき、なぜか胸がざわついたんだ。記憶にはないのに……どこか懐かしい感覚。」


「……本当に、何も知らないのか?」


「“アレン”って名前も、オーガストレイ家の内情のことも──何ひとつ知らない」


そう言うとレオンは黙り込んだ。

その沈黙には、驚きや疑念ではなく、ただ真実を受け止めようとする静けさがあった。


「……けど、もしその名に何か意味があってもなくてもいい。お前がこれから何かに巻き込まれていくなら──僕は、お前の隣にいる」


アランは目を見開き、少し照れくさそうに笑った。

「ありがと、レオン」


風が吹いた。

その風は、どこか遠く、見えない過去と、まだ見ぬ未来を運ぶような気がした。

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