第1話 冒険者登録
本編第1章始まります。
アランの初々しい姿を描いたつもりです。
ここはエルデン=アルカディア大陸の中央に位置する、
神聖リヴァレス王国の王都――リュミエール。
宮廷、神殿、王立魔法学院、騎士団本部、そして冒険者ギルドの本部が並び立つこの都は、
冒険者を志す者にとっての登竜門。
だがその輝きの裏には、貴族街と貧民街に分かれた、はっきりとした身分差の縮図が広がっている。
赤瓦の屋根が連なる高級住宅街の裏手では、崩れた塀に子どもたちが落書きをし、
道端では薄汚れたローブの老人が空き瓶に小銭を入れて揺らしていた。
香辛料と下水のにおいが混ざり合う市場を抜ければ、
干した薬草と焼きたてのパンの香りが鼻先をかすめ、
どこかの店先からは陽気な楽器の音が流れてくる。
——どこを切り取っても、今日も街はいつも通りだった。
貧富の差はあれど、戦火は遠く、魔獣の気配もない。
誰もがそれなりに忙しく、それなりに暮らしている。
いわば“平和”そのものだ。
「——っしゃあ、もう少しだ!」
陽の光が降り注ぐ石畳の街路を、ひとりの少年が駆けていた。
短く切った黒髪が風を切り、首元で揺れる銀のペンダントがちりんと鳴る。
アラン、十五歳。
ついに夢見た日がやってきた。
「このスラムの裏道を抜けりゃ……ギルドまではすぐだ!」
街の裏通り。
剥がれかけた壁の落書き、行商人の怒声、干した薬草の香りと濡れた麻袋の湿った匂い。
アランはそのすべてを駆け抜け、角を曲がった——そのとき。
ドンッ!
「おっと!」
「小僧、何をしている。邪魔だ、退け」
ぶつかったのは、蛇の紋章が刻まれた黒鉄の鎧を着た男。
鋭い眼差しにアランは一瞬たじろぐが、すぐに手を上げて軽く謝る。
「わりぃ! 俺、急いでるから! 説教はまた今度な!」
「無礼な……っ!」
後ろから怒声が響いたが、アランはすでに走り出していた。
目的地はすぐそこだ。
重厚なレンガと石造り、二階建ての巨大な建物。
王国の白金紋章と翼の彫像が掲げられ、威圧感すら漂わせる外観。
入口には、過去に名を残した冒険者たちの名が金属板に刻まれており、
その下で報酬袋を手に笑う者、血まみれの鎧で肩を落とす者が行き交う。
その正面には、こう刻まれていた。
『『リヴァレス王国・冒険者ギルド リュミエール本部』』
「うおおお……これが、ギルド……っ!」
冒険者志望なら誰もが憧れる、力と名誉が集う場所。
まるで城のようなその荘厳な姿に、アランは思わず足を止める。
だが次の瞬間には——
バンッ!
勢いよく扉を開け、胸を張って踏み込んだ。
「未来の英雄が、冒険者登録に来ましたーーーッ!!」
……だが。
「……」
ガヤガヤガヤガヤ……!!
ギルド内は賑やかに騒がしく、アランの叫びは一瞬で雑踏にかき消されていた。
汗と革、煙草と酒の匂いが入り混じる空間。
壁には古びた依頼書がびっしりと貼られ、討伐された魔物の牙や角が装飾のように並べられている。
酒を飲む者。地図を広げて討伐の作戦を練る者。
傷を手当てしながら笑う者。誰一人、アランの登場に気づかない。
「ここが冒険者ギルド…やっぱりすっげーな、強そうな奴らばっか…」
興奮と緊張が入り混じり、アランの顔はじわじわ赤くなっていく。
(うわ、なんかメチャクチャ浮いてる気がする……!)
そのときだった。
「未来の英雄さん、ようこそ——冒険者ギルドへ」
受付カウンターの奥で手招きしていたのは、栗色の髪をひとつに束ねた女性だった。
白と紺を基調にした制服をきっちりと着こなし、涼しげな灰色の瞳が、アランを上から下までひと目で値踏みするように流していく。
「冒険者になりにきました!まだ間に合いますか!?名前はアラン、リュミエール出身! 今日から冒険者になります!」
「ふぅん……元気だけはあるみたいね、新人くん」
女性——リゼット・グランディールは、わずかに眉を上げると、慣れた手つきで書類を数枚取り出した。
「じゃ、まずは登録用紙の記入から。名前、年齢、出身地、戦闘スタイル……全部正直にね。
後で魔道的な照合もあるから、嘘書いてもすぐバレるわよ?」
「お、おう!」
緊張しつつも、アランは真剣な表情でペンを走らせていく。
名前:アラン
年齢:15
出身:リュミエール
戦闘スタイル:剣
魔法:なし
リゼットはそれを横目に、書き終わった用紙を確認しながら、トントンとカウンターを指先で叩く。
「アランくん、あなた魔法は使えないのね。属性検査とかしたことある?」
「いやしたことないぞ!たぶん使えないしな!」
「そう、内容は問題なし。…じゃ、次は登録試験よ。その後、念の為、属性検査と魔力測定もしましょうか。」
「試験? 模擬戦か? いつでも来いよ!」
アランは勢いよく立ち上がり、剣の柄に自然と手がかかる。
そんな彼の様子に、リゼットはふっと鼻で笑った。
「本当に元気だけは合格ね。…懐かしいわ、性格的には危なっかしいけど」
淡々としながらもどこか面白がっているようなその口調で、彼女は奥の重い扉を親指で指す。
「地下訓練場。案内するから、ついてきて」
〜間話〜
アランの背中が門の向こうに消えた。
静かになった中庭で、ガレスが腕を組んでぽつりと呟く。
「……行っちまったな」
「ええ、立派になったわね」
「……今日の風呂掃除、誰がやるんだ?」
「まず“無事を祈る”が先でしょ!!」
読んでいただきありがとうございます。
街の雰囲気を伝えたくて冒頭を厚めにしてみたんですが。ちょっと読みにくいですか?
次回は登録試験!同期登録者も出てきます。
アランが試験おちたら、お話し終了??
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