表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第4章 救国の片鱗 森の都エレジア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

251/251

エレジア樹海に踏み込む

樹海の空気は、境界へ近づくほどに濃く、深く、息づいていた。


ウィスフォレ村で受けた“精霊の儀”の痕跡は、まだ身体の奥を静かに満たしている。

アランは左手に巻かれたミスリル製の腕輪をそっと撫でた。冷たい金属なのに、なぜか脈を打つような温もりがある。


「ここが……エレジア樹海国の結界、ね」

リィナが木々の間に漂う薄光を見上げる。


光の膜は、森そのものが呼吸しているかのように揺らめいていた。

拒むための壁であり、選ぶための門でもある。

「精霊の加護があれば通れる、って話だが……」

ボリスが巨大な鍋盾を担ぎながら眉をひそめた。

「ほんっとに大丈夫なんだよな?長老、冗談で“灰になる”とか言ったりしないよな?」

「冗談かどうかは、この一歩でわかるわよ」

リィナは肩をすくめるが、瞳は真剣だ。

レオンが前に出て、静かに結界の脈動を観察する。

「波長は安定している。精霊術式の干渉も良好。ミラ、きみはどう感じる?」

ミラは白い外套のフードを整え、目を細めた。

「問題ない」


その言葉にアランも頷く。精霊の儀の最中、彼らは確かに何かに触れた。

それが今も腕輪を通して響いてくる。

「じゃあ、行こう」

一歩踏み出した瞬間、アランの腕輪がふっと光を帯びた。

結界が応えるように淡い波紋を広げる。

風のない空間に小さな音が生まれ、森全体がひとつ息を吐いたようだった。


歓迎する。


言葉ではない声が、胸の奥でそっと触れた。

 

目の前の薄膜に足を踏み入れると、一瞬だけ水面をくぐるような抵抗がある。

 

ひやりとした光の粒が肌を滑り、視界が一度だけ白く瞬いた。

 

気づけば、その向こう側

結界の内側にいた。


「……通った、のか」  

ボリスが目を見開く。


森の色が、外よりも深い。

青みを帯びた翠の光が枝葉を染め、風もないのに葉が震えて鈴のような音を立てる。

ここが精霊の国だと、否応なく理解できた。


「精霊の加護…本当に」

レオンが安堵の息を漏らす。


「アラン、聞こえた?」

ミラが小声で尋ねてくる。


「ああ。森に迎えられたような、そんな感じ」


「ふふ、やっぱりアランは変なとこで精霊と相性いいのよ」

リィナが笑う。


だがその陽気さをかき消すように、森の奥から低い風の音がうなった。

 

温もりある精霊の気配とは違う、重たくぬめるような存在感。


瞬間、レオンの表情が鋭くなる。


「全員、準備を。結界内だからって油断するな。エレジアは“通す者を歓迎する”森じゃない」


「敵意を持たれてないだけマシ、ってやつか……」

ボリスが盾を構える。


アランは腕輪を見下ろす。

微かに光るそれは、森の脈動と同じリズムで呼吸していた。


「よし……進もう。早く王様に会って帰還しよう。なんか気味が悪い」

仲間たちは無言で頷き、隊列を整える。

精霊の森の奥へ。エルフに認められた者だけが踏み込める領域へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ