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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第4章 救国の片鱗 森の都エレジア編

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第31話 成長の指針

 村の広場には、朝霧がまだ薄く残っていた。

 木々に囲まれた石畳の広場の中央には、古びた樫の杖を手にしたエルフの老婆が立っていた。

 背は曲がり、白銀の髪を一本に束ね、瞳は翡翠のように澄んでいる。

 その目は、まるで全てを見透かすような鋭さを持っていた。

「来たか、人の子らよ。わしがこの村で“術の目”を預かる者、フェルネ婆じゃ」

 老婆――フェルネが口を開くと、三人の背筋が自然と伸びた。

 彼女の周囲に漂う空気は、年老いてなお力を宿す“魔導師”そのものだった。

「ミラの奴から聞いとる。おぬしら、森を渡るためには魔力の調和が必要じゃ。

 まずは適性を見せてもらおう。ごまかしは通じんよ」

 フェルネが杖の先を地に突くと、青白い魔法陣が足元に浮かび上がった。

 風と光が渦を巻き、三人を包み込む。

「では、順にいくぞ。まずは……その銀髪の少年」

 レオンが一歩前に出た。

 落ち着いた動作で杖を構え、無詠唱で氷の結晶を生み出す。

 瞬間、フェルネの眉が僅かに上がる。

「……ほう、式の構成が古い。おぬし、どこで学んだ?」

「学術都市セフィリオスです。古代魔導の理論を中心に研究していました」

「なるほど。ならば納得じゃ。おぬしの魔法は古き“真理の言語”に近い。久方ぶりに見たのう」

 老婆は満足げに頷き、レオンの背後に淡い光の紋を刻む。

「合格じゃ。おぬしには“知識を深める修行”を課す。

 七日の間、村の書庫で古代魔法とこの地の精霊術を照らし合わせよ。

 理論を磨き、精霊との共鳴を試みるがよい」

「……承知しました」

 レオンは一礼し、控えに下がった。

「次。鍋担いだ変わり者」

「お、おれっすか!?」

 ボリスが慌てて前に出る。

 フェルネがじっと見つめると、ボリスの背後に淡い土色の光が浮かび上がった。

 同時に、彼の心を映すように揺らめく赤褐色の紋。

 しかし、すぐにそれは乱れ、消える。

「……ふむ、精神と土。珍しい取り合わせじゃ。だが――」

「だが?」

「まるで訓練されとらん。精神の波が荒れすぎて、魔力が逃げおるわ」

「う、うわぁ……やっぱり?」

 フェルネは呆れたように息をつき、杖で地を軽く叩く。

「不合格じゃ。だが、見込みはある。七日のあいだ、“沈黙の洞”で瞑想せよ。

 心を整え、魔力の流れを静めるんじゃ。できるまでは飯抜きじゃぞ」

「えぇぇ!? それは修行っていうか罰じゃないっすか!」

「ふふ、修行と罰の違いが分かるようになれば、少しは成長するじゃろ」

 リィナが笑いを堪えながら肩を叩いた。

「じゃ、次はわたしね」

 フェルネがリィナを見据える。

 瞬間、風が軽く舞い上がり、リィナの髪が揺れた。

 魔力は確かに少ない。けれど、流れは滑らかで、まるで水面をなぞるように自然だった。

「……ふむ。魔力量は小さいが、使い方は上手い。小川のように無駄がないのう」

「ありがと。体が勝手に覚えちゃってるんだ」

「抜け目のない子じゃ。合格じゃ。おぬしには“回路の研磨”を命ずる。

 村の工房で魔力回路の編み方を学べ。自分の流れをより細やかに扱えるようになれ」

「了解。楽しそうだね、こういうの」

 老婆は三人を順に見渡し、最後に深く頷いた。

「七日後、再びここに集まるのじゃ。

 その時、おぬしらがどれだけ“自然と調和した魔導”を掴めたか、わしの目で見極めてやる」

 広場の木々がざわめき、風が三人の頬を撫でた。

 それはまるで、森そのものが彼らの挑戦を見守っているかのようだった。



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