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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第4章 救国の片鱗 森の都エレジア編

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第20話 魂の炎

「おい、お前ら。この小僧どもを始末しろ!この鉱山は俺たちのもんだ!」


 ビタシィの怒号が響く。坑道にこもった熱風が、合図のように唸った。


 アランは剣を抜き、レオンが詠唱を重ねる。

 火花が散り、赤光が弾けた瞬間、戦いの幕が開く。


 「来やがれ!」


ボリスが先陣を切る。大鍋を盾代わりに構え、突進してきた賊の刃を受け止めた。

鉄と鉄がぶつかる轟音。

次の瞬間、鍋底がひっくり返り、賊が壁に叩きつけられる。


「右、三人!」

リィナが短く叫ぶ。

影のように駆け、双短剣で腕を払う。

その隙を縫うように、アランが踏み込んだ。


「はッ!」

剣が一閃。刃ではなく柄で腹を打ち、相手の呼吸を奪う。

膝をついた賊の腕を絡め取り、背中で押し倒す。

床に叩き伏せ、剣先で動きを封じた。


「氷結の陣、展開!」

レオンの詠唱が終わる。

淡い蒼光が坑道を走り、床を凍らせた。

足を取られた賊たちが立て続けに転ぶ。

 


リィナは氷上を滑るように駆け抜け、跳躍とともに柄で顎を打ち上げた。

「これで――終わりよ!」


ボリスの雄叫びが重なる。

巨大なフライパンが振り下ろされ、轟音が坑道を揺らした。

煙と粉塵の中、賊たちは武器を落とし、床に散った。

ただ、荒い息と熱気だけが残る。


奥でその光景を見ていたビタシィが、目を細める。

誰もが互いを信じて動き、恐れがない。

「なるほど。アーグの親父が目を掛けたのも納得な連中だ。」


「これ以上、争う理由はないはずだ!」

アランの声が響く。

「もしあんたの誇りがまだ残ってるなら、もう一度やり直せ!」


坑道を渡る熱風の中、ビタシィは黙って手を見下ろした。

黒鉄の拳。焦げた表面に、アーグから教わった技術がまだ残っている。

それはかつて“鍛冶屋”としての誇りだった。


「フン。あの頑固親父は厄介な連中を」

ビタシィはわずかに笑い、手を上げた。

残った部下たちが次々と武器を放る。

鉄の音が静かに転がり、坑道を包んでいた熱が、ようやく落ち着いていく。


アランは剣を下ろし、深く息を吐いた。

リィナが短剣を納め、レオンは魔法陣を解き、ボリスが額の汗を拭う。

「……終わったな。」

ボリスの言葉に、全員が頷いた。


誰もがしばらく無言のまま、その熱を感じ取っていた。


「……さて。」

アランが顔を上げた。

「アーグさんの言ってた“焔心石”を、見つけなきゃな。」


坑道の奥、崩れた岩壁の一角――

そこだけが、不自然に赤く染まっていた。まるで中に、まだ火が生きているかのように。


アランはツルハシを手に取り、壁に刃を立てた。

「いくぞ。」


カン――。

乾いた音が、坑道に響く。

またひとつ、またひとつ。

 

リィナが松明を掲げ、レオンが光の魔法で周囲を照らす。

ボリスが崩れた岩をどかし、落ちてくる砂塵を手で払った。

汗が頬を伝い、鉄と土の匂いが鼻を突く。

それでもアランの腕は止まらなかった。

何かが、この奥で脈打っている。


「待て、アラン……光が――」

レオンの声と同時に、壁の奥で微かな赤が瞬いた。

ツルハシの刃が最後の層を貫くと、岩の隙間から、眩い紅光が溢れ出した。


「……あった。」

アランは息を呑み、慎重に手を伸ばした。


掌に収まったのは、拳大の鉱石だった。

それは炎のようにゆらめき、内側から脈を打つように赤く光っていた。

 

まるで、生きている心臓のように。


「これが……焔心石。」

アランの指先が触れた瞬間、熱が走った。

「っ……熱い!」

思わず手を離しかけるが、ぐっと握り締める。

掌が焼けるように熱いのに、不思議とその奥は温かかった。


リィナが目を細めて言った。

「まるで、心臓みたいね。まだ燃えてる。」


「……そうだ。」

アランはゆっくりと頷く。

「これが、アーグさんの言ってた“鍛冶の魂”だ。」


坑道の熱が静まり、赤い光だけが残った。

その光が、アランの瞳に映る。

冷たい鉄と熱い心――二つの世界をつなぐように、焔心石は脈打っていた。


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