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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第4章 救国の片鱗 森の都エレジア編

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プロローグ 王都の香り、焦げる風

石畳の通りを抜けた瞬間、ボリスの目が輝いた。

「おおおっ! なんだここ、屋台がずらーっと並んでるじゃねえか! うわ、あっちの串焼き……うまそう!」

「ボリス、落ち着けって。まず宿を――」

「うまそう!」

 アランの制止など聞こえないらしく、ボリスはすでに肉の香ばしい匂いに釣られて駆け出していた。

 つられてアランも笑いながら走り出す。

「じゃあ俺はこっちの揚げパン!」

「おい、アランまで!」

 レオンが額を押さえ、ため息をつく。

「……子供か、君たちは。」

「王都だぜ? 初日くらい、はしゃがせてやりなよ。」とリィナが肩をすくめ、どこか楽しげに笑った。

 結果、二人が両手いっぱいに屋台の食べ物を抱えて戻ってきたのは、それから五分後のことだった。

「見ろよレオン! 肉串十本、揚げパン六個、焼きトウモロコシ三本、あと――」

「ボリス、それ絶対食べきれない。」

「だ、大丈夫! 残ったらリィナにあげるから!」

「……食べないわよ、そんな脂ぎったの。」

 そんなやり取りをしていると、通りがかりの商人風の男がアランに声をかけた。

「おっ、君、冒険者ギルドの若手だろ? 最近よく聞くぞ。頑張ってるな!」

「え、あ、はい。ありがとうございます!」

「なんだか、逞しくなった気がするな。――ま、王都も物騒だ。気をつけな!」

 男はそう言って去っていったが、アランは首をかしげた。

「物騒って、どういうことだ?」

 すると近くで聞き耳を立てていた別の客が口を挟む。

「知らないのか? 北の方で小さな内乱があったらしいぞ。貴族同士の揉め事とかなんとか。」

「へえ……また厄介な話だね。」とリィナ。

 さらに、今度は衛兵が道を通りながら仲間と話しているのが耳に入る。

「他国からの入国、だいぶ厳しくなったらしい。王都の門番、今週から検問強化だとよ。」

「ふうん、面倒くさい時に来ちゃったね。」とレオンがぼそりと呟いた。

 だが、当のアランとボリスは、そんな話より目の前の山盛りの食べ物に夢中だ。

「うまっ! この串、マジで当たりだ!」

「おい、アラン! そのパンひと口――あっ! 全部食ったな!」

「ははは! 早い者勝ち!」

 通りには笑い声と焼き油の匂いが混じり、王都リュミエールの一角は、ひとときだけ平和で愉快な喧騒に包まれていた。


昼の喧騒が落ち着いた頃、ギルドの片隅――本来は依頼書を整理するためのテーブルに、信じがたい光景が広がっていた。

 アランたち四人が、山のように屋台の食べ物を広げて、まるで宴の真っ最中だったのだ。

「なあボリス、その串もう一本くれ!」

「おっと、これは俺のだ。……って、アラン! 勝手に取るな!」

「ふふ、まだまだ甘いな。」

「子供のケンカか……」とレオンが呆れながらも、焼きトウモロコシをかじっている。

「レオン、結局食べてるじゃん。」

「……栄養補給だ。」

 そこへ――

「ちょっとアランくん、ギルドは食堂じゃないのよ!」

 声の主は、受付嬢のリゼットだった。腰に手を当て、眉を吊り上げている。

「わ、リゼットさん!? いや、その、ちょっと味見を……」

「味見の量じゃないわ、それ。」

 リゼットはため息をつきながらも、テーブルの上を見て苦笑した。

「まったく……あなたたち、遺跡の件で帰ってきたばかりでしょう? 簡単な依頼って頼んだのに、また大変なことになっちゃってごめんね。こっちでも対処してるから。」

「んーまぁ、色々知れたから、面白かったぜ。」とアランが笑う。

「面白いって……何度死にかけたんだ?」レオンが鋭く返す。

「死にかけたついでに頭も成長すればよかったのにね。」リィナが肘でつつく。

「おいおい! オレがいたから無事だっただろ? それに美味いもんも食えたしな!」ボリスが胸を張る。

「「「それは関係ないだろ!!」」」

 ギルド内に笑い声が響く。リゼットも思わず口元を緩めた。

「ふふっ……愉快なお仲間が増えたみたいね。――レオンくんの負担が増えなきゃいいけど。」

「俺の負担はもう限界に近い。」

「え、えぇ!? そんなにか!?」アランが焦る。

「そうねぇ、見てると納得できるけど。」とリィナがからかう。

 ボリスは串を掲げて得意げに言った。

「リゼットさん、ちなみに俺がこの中で一番ランク上だよ?」

「……だからって、食堂ルールは変わらないわよ?」

「くっ、リゼットさんの笑顔が冷たい……!」

 そのやり取りの最中、アランが思い出したように手を上げた。

「あっ、そうだ! 俺、ランク試験受けたい!」

「アランくんは……たしかGランクの駆け出しだったかしら?」

「うっ……そ、そうです……。」

「じゃあ、まずはギルドの床を片づけてからね?」

 アランが顔を真っ赤にして立ち上がり、慌てて串や包み紙を集める。

 その様子を見て、レオンが静かに呟いた。

「王都に来ても、結局いつも通りだな……。」

 そしてリィナとボリスが同時に頷く。

「ま、これがうちらだよな。」

「腹が減っては冒険できねえ、ってな!」

 王都リュミエールのギルドには、今日も笑い声と焼き串の香ばしい匂いが満ちていた。

「――試験は二週間後ね。」

 リゼットが書類をめくりながら、いつもの落ち着いた声で告げた。

「アランくんはFランク昇格試験、レオンくんはEランク昇格試験。リィナちゃんは……Dランク昇格試験でいいかしら?」

「はい、お願いします。」

 それぞれが頷く中、リゼットはちらりとボリスの方へ視線を移す。

「ボリスくんは――実績が少し足りてないみたいね。」

「えっ、マジか……! あんなに依頼こなしたのに。」

「食料配達と屋台の手伝いは、冒険とは言わないのよ。」

「ぐっ……!」

 小さな笑いが起きたあと、リゼットは表情を和らげて続けた。

「それと、前に言ったと思うけど――パーティ申請はどうするの?」

 アランはすぐに手を上げる。

「この四人でパーティ申請しようと思う!」

「ちょ、ちょっと待って!」とリィナが慌てて制した。

「名前も決まってないのに申請って早すぎるでしょ!」

「勢いも大事だろ?」

「勢いでギルドは動かないの。」

「リゼットさん、名前決めるからもう少し先でもいい?」

「うん、いいけど――早めにした方がいいわよ。登録した方が報酬分配も楽になるから。」

「OK、わかってます!」アランは笑って返したが、リゼットはその様子を静かに見つめていた。

 しばしの間、窓の外の風がカーテンを揺らす。

 そのとき、リゼットがふと思い出したように声を上げた。

「あ、そうだ。アランくんに手紙が届いてるんだ。今、持ってくるわね。」

 彼女はカウンターの奥へ消え、やがて一通の封筒を手に戻ってきた。

「はい、これ。――桜虎騎士団の団長から。」

「え……桜虎騎士団?」

「あなたに似た“アレン”って子が、兄さんに渡してくれって。伝言で、『無理に来なくてもいい』って言ってたわ。」

 アランは受け取った手紙を見つめた。

 厚手の封筒。見覚えのある家紋が刻まれ、赤い封蝋が落ち着いた光を放つ。

 手のひらに伝わる、微かな緊張。

 開けなくても分かる――それは“本家”からの招待状だった。

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