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プロローグ - 銀の羽根、風に乗せて -

完成したら長編になると思います。

暖かく見守ってください。

「これは俺たち、“銀風の矢”が仲間として結ばれた証──大切なお守りだ。

もしお前が、本当に立派な冒険者になったら……そのときに、俺に返してくれ」


 それは風を模した銀細工のペンダントだった。

 ごく小さな銀の羽根に、四色の糸が巻き付けられている。


「ほ、ほんとうに……いいの? これ、大切なものじゃ……」


 幼いアランが、両手でペンダントを受け取る。その瞳には、尊敬と憧れが宿っていた。


「だから託すんだよ。信じてるからな、“小さな勇者さん”」

「さあ宴だ! 生きてることに乾杯だぁっ!!」


 笑い声と焚き火のぱちぱちと燃える音が、夜空の星に届くほど響いた。


 かつて――“銀風の矢”が誇り高く戦ったあの時代。


その矢は確かに光を放っていた。

希望の象徴として、人々の胸を熱くした。


だが、その輝きの影で、王国は静かに、しかし確実に、崩壊への道を歩み始めていたのだ。


まだ誰も、それに気づいてはいなかった。


それは、まだ風の中に潜む小さな影のようなものだった。

ーーーーーーー


夕暮れ時の道場の縁側。

ガレスは手にした古びた封筒をじっと見つめ、ゆっくりと中の便箋を取り出した。文字は丁寧に綴られているが、その内容は重苦しいものだった。


「――銀風の矢は、もう存在しない。

あのときの坊主がまだ冒険者になりたいと言っているのなら……止めてくれ。

あの子の中に眠る力が目を覚ませば、災いを呼ぶ。

真実を知る者は消される。それがこの国のやり方だ。

……どうか、あいつだけは無事でいてくれ――」


ガレスは読み終えると、視線を少し落とし、拳を強く握り締めた。隣にいるメアリも顔を曇らせ、静かに手紙の内容を噛み締めている。


「あんなに、陽気だった彼らになにがあったのかしら」とメアリが呟いた。その声には心配と諦めが入り混じっていた。


「この国の闇は、俺たちが思っていた以上に深い。……アランに、その底を見せるわけにはいかない」とガレスは言った。彼の目には強い決意が宿っていた。


メアリはそっと手紙を折り畳みながら、「レオニス様からも『戦いに関わらせるな』と厳命が届いている。誇りなんかじゃないわ。名家の血は……呪いに近い。アランに背負わせていい重さじゃないのよ」と告げた。

彼らは警告を受け、アランを守るために苦しい決断をしていた。何も知らないアランに冒険者を諦めさせなくてはならない。彼の運命がどれほど重いものか、二人は痛いほど理解していたのだった。



朝の陽が、リヴァレス王国・王都リュミエールの石畳に差し込む。

“チュンチュン”と小鳥がさえずり、遠くで“カーン、カーン”と鐘の音が響く。

まるで物語のページがめくられるように、新しい一日が始まった。


その朝、誰よりも早く目を覚ました少年がいた。


道場の中庭に立つ、黒髪の少年——アラン 十五歳。


日々の鍛錬で引き締まった体、真っ直ぐな金色の瞳が、今日という日を見据えていた。


「今日が最後のチャンス、模擬戦に勝って……冒険者になるんだ」


剣の柄を強く握りしめ、胸元の銀のペンダントにそっと触れる。

昔、憧れの冒険者にもらった約束の証。


それは、彼にとって“夢”そのものだった。


だが、道場の縁側からは、くすくすと笑い声が聞こえてくる。

「また来たよ、朝稽古のバカ真面目」

「今日も負けるに決まってんだろ」

「もう十回以上、挑戦してんのにな〜」

アランは歯を食いしばる。


この一ヶ月、模擬戦を何度挑んでもあと一歩で敗れ続けていた。

だが——


「やってみなきゃ、わかんねぇだろ!!」


 その叫びに、道場の空気が一瞬で変わった。


「まったく……朝からうるさいな。模擬戦前だってのに元気なこった」

縁側に立っていたのは、ガレス。アランの育ての父であり、道場の師範を務める剣士だ。


年季の入った道着に、貫禄ある佇まい。

だがその瞳は、ほんの一瞬だけ、何かを確かめるように細められていた。


「……いい顔してるな、アラン」

年季の入った道着に、貫禄ある佇まい。だがその瞳は、どこか誇らしげに細められていた。


その声に続いて、湯気を立てた皿を手に現れたのは、メアリ。薬師として働きながら、アランを我が子のように育ててきた女性だった。

「朝食はちゃんと食べた? ……あんた、顔色悪くなるとすぐ目の下に出るんだから」

「……ありがとう、母さん」


アランは照れくさそうに笑ってパンを頬張ったが、メアリの視線はひと呼吸だけ長く、胸元の銀のペンダントに向けられていた。


今日は約束の最終日。

“この一ヶ月以内にガレスを倒せば、冒険者になることを認める”──

そう言い渡された、たった一つの条件。


アランにとっては夢の前の最後の壁。

だが、ガレスにとってはどうしても超えさせたくない一線だった。


「来い、アラン」


声は静かだった。

だが心の奥には、どうしようもない迷いと苦しみが渦巻いていた。

(負けさせなきゃならん……。だが、あいつの目を見てみろ……)


ガレスは剣を構えた手に、ほんの僅かに力を込める。


一方、アランは全身で前を向いていた。


剣を握る手は震えていたが、迷いはなかった。


「今日こそ……絶対に!」


ザンッ!

ギンッ!


木剣が唸り、鋭い一太刀がガレスに迫る。

ガレスは受け、木のぶつかる鈍い音が響く


「まだ浅いぞ、アランッ!」


「——わかってるってば!」


バシュッ!


カンッ!

ガンッ!


剣撃の応酬。力と力がぶつかり合うたびに、心が削られる。

アランはもう、息が上がっている。けれど、止まらない。


メアリは縁側の柱に手をつき、苦しげに目を伏せた。

(お願い……負けて。アラン。あんたを冒険者にさせるわけには……)


だが、少年の体は、何度打たれようと、真っすぐ立ち続けた。

その姿に、ガレスの胸に張り裂けるような痛みが走る。

(……何をしてる。こんなこと、望んでいなかったろう……!)


「こんなとこで……終われるかよっ!!」


ダンッ!!

アランが地を蹴った。


正面から突き進んだと見せかけて──ほんの一瞬、半歩右へ。


「っ……下段かっ!?」


連牙斬れんがざん


シュッ

カンッ

シュッ

カンッ


バシュンッ!

ガンッ!!


はじめてみせた三連撃が、ガレスに命中した。

木剣が床にガタンと落ちた。


カラリ……ン。

(どこで、この連撃を…)


静寂。


息を切らしながら、アランが立っていた。

「……やった、のか……?」

その声は、夢を確かめるように震えていた。


ガレスはゆっくりと顔を上げた。

目の奥に、苦い誇らしさと、どうしようもない敗北感を宿して。


「……ああ。お前の、勝ちだ」


「やったあああああ!!」

アランの声が、晴れた空に響き渡った。


縁側で拍手が起きる。メアリが、ゆっくりと微笑んでいる。

だがその頬には、ひとすじの涙がつたっていた。

(ああ……こんな顔、見せたくなかったのに)


「冒険者になっても、慢心するなよ。これは、始まりにすぎないんだからな」

ガレスの声には、わずかにひっかかりがあった。だがそれをアランが聞き取ることはなかった。


「もちろん! でも今日は勝ったからな、父さん!」

「……ふん、口だけは一丁前になったな」

笑い合う三人。その中庭に、朝の光が優しく降り注いでいた。


アランは空を見上げる。胸には銀の羽根。目には未来。


「行ってくるよ。絶対に、名を残す冒険者になってやるさ!」


アランが背を向け、門の前まで歩いたそのとき――


「おい、アラン」


ガレスの低い声が呼び止める。振り返ると、父は腕を組んだまま、じっとこちらを見ていた。


「……一端の冒険者になるまで、帰ってくるなよ。……いいな?」


一瞬、アランの瞳が見開かれる。


それは厳しさの中に込められた、父なりの愛情。そして……

本当は言いたくなかった“門出の言葉”。


「……ああ、わかってる!」


その横で、メアリがそっと口元に手を当て、アランの背中を見つめていた。


「アラン……怪我してもいいから、無事でいてね。

帰ってくるとき、ちゃんと笑ってなさいよ」


彼女の声はやや震えていた。


けれどアランはそれに気づかず、振り返らずに右手を高く上げ、力いっぱい手を振った。



その背中に、そっと風が吹いた。



小さな銀の羽根が揺れて、

少年の旅路を祝福するかのように――



その日、ひとりの少年が旅立った。



剣を携え、夢を胸に抱いて。



プロローグ読んでくださりありがとうございます!


何度も読んで書き直してますが

主人公アランが魅力的になったでしょうか?

次はギルドへ、アランくんファイト!


感想やブクマ、ぜひよろしくお願いします!

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