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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第3章 隠蔽された過去 南の都編

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第82話 無邪気

 春の陽光が庭いっぱいに降り注いでいた。

 若草の香りが風に混じり、白い花弁が舞う。オーガストレイ家の広大な庭は、まるで小さな王国のようだった。

 その中心で、まだ四つか五つほどの少年が、木の枝を片手に走り回っている。

 アラン・オーガストレイ――その名に宿る重さを、彼はまだ知らない。

「見て、お母さーん! 僕、魔法使いみたい!」

 細い枝を杖のように掲げ、アランは得意げにポーズを取った。

 陽光を受けて、金色の髪がきらめく。その無邪気な姿に、遠くの回廊から見つめるセリーヌは、ふと微笑んだ。

「アラン、いい子ね。でも、無理はしないで。」

 彼女の声は柔らかく、春風のようだった。

 アランはその言葉に小さく頷くと、胸を張って笑った。

「大丈夫! 僕、強いから!」

 その言葉に、セリーヌの胸がきゅっと締めつけられる。

 ――強い。

 その響きが、彼女の心に痛みを呼び起こした。

 彼の中に流れる“あの血”が、いつか彼を苦しめるかもしれない。

 そう思うだけで、微笑みの奥に影が差す。

 セリーヌはゆっくりと目を伏せ、静かに両手を握りしめた。

 その仕草の奥に、母としての優しさと――ひとりの貴族としての覚悟が見え隠れする。

 風が吹いた。

 アランの持つ枝が揺れ、白い花びらがひとひら、彼の頬に触れる。

 少年は笑ってそれを手で払い、何の不安も知らぬまま、再び駆け出した。

 その笑顔を見つめながら、セリーヌは胸の奥で静かに呟く。

 ――どうか、この子の笑顔だけは守りたい。たとえそのために、すべてを失うことになっても。


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