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第77話 脱出

「もうやめろ……! お前たちは、誰のために戦っているんだ!」

 アランの叫びが、崩壊しかけた遺跡の奥に響いた。

 その声は、怒りよりも悲しみに近かった。


 だが――返る声は、どこにもなかった。

 仮面の群れは静かに立ち上がる。

 その動きには感情がなく、ただ“命令”だけがあった。


 そして、全員が胸に刻まれた紅い紋章へ手を添える。


「やめろ……まさか――」


 遅れた瞬間、紋章が脈動した。


「自爆符だ!」

 レオンの叫びが響いた直後、爆音が空間を裂いた。


 閃光。衝撃。

 炎の波が奔り、崩れかけた天井が悲鳴を上げて崩落する。


 ボリスが盾を広げ、仲間たちを庇った。

 レオンはとっさに杖を掲げ、幻術の防壁を展開する。

 ハルクはラグナを抱え、瓦礫を避けて転がり込んだ。


「ぐっ……まだだ、まだ終わってねぇ!」


 火と煙の中、アランはただ一人、立っていた。

 断罪の聖剣を地に突き立て、燃え尽きた空間の中に、淡い光を放って。


 その光は――王の証。

 滅びの中でなお脈打つ、かすかな“生命の輝き”だった。


 瓦礫が降る。崩落の音が世界を満たす。

 しかし、その光だけは、嵐のような混沌の中で確かに在った。


 ――まるで、古の王たちが、次なる継承者の誕生を祝うかのように。


 轟音が、すべてを飲み込んだ。

 天井が裂け、炎が吹き上がり、魔力の柱が悲鳴を上げて砕けてゆく。


「兄さんっ!」

 アレンの叫びが火煙を貫く。


 聖剣の光が一瞬だけ弾け――そして、静かに消えた。

 その瞬間、アランの身体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「アラン!」

 アレンが駆け寄り、彼の身体を抱きとめる。

 軽い。恐ろしいほどに。


「もう……限界だ……!」

 脈はある。だが、魔力は完全に枯渇していた。

 意識はすでに、深い闇へ沈み込んでいる。


 地鳴りが大地を震わせた。

 割れた床の裂け目から、炎と煙が吹き上がる。


「全員、退避! 出口へ急げ!」

 アレンの怒号が響く。


 レオンが即座に杖を振る。

「《幻影投射――双路》! 出口の幻を創れ、敵の目を惑わせろ!」

 光の陣が走り、崩れた通路の先に幻の回廊が生まれた。


 リィナが縄を投げ、崩れかけた足場にフックを打ち込む。

「ボリス! ここ、支えて!」

「任せろッ!」

 巨躯の盾士が岩盤に盾を突き立て、崩れ落ちる天井を受け止める。

 火花が散り、金属の悲鳴がこだまする。


 ハルクが周囲を見渡し、リィナと息を合わせる。

「北側の回廊、まだ持ってる! こっちだ!」

 ラグナは肩に抱えた装置の残骸を抱き締めるようにして叫んだ。

「記録データは残った! 急げ、崩れるぞ!」


 その声に、皆が一斉に駆け出す。


 瓦礫の向こうでは、ラース率いる旧朱猿の戦士たちが奮闘していた。

「行け! 若いのを先に出せ!」

「団長、あなたは――!」

「俺は後で行く! 早く行けッ!」


 彼らの背に宿るのは、滅びゆく誇りの残光。

 その光が、最後の戦場を照らしていた。


 天井が崩れ落ち、巨大な岩塊が落下する――。

 その瞬間、アレンがアランを抱えたまま、剣を抜いた。


「通れ……《断鋼》ッ!」


 銀光が奔る。

 刃が岩を裂き、轟音と共に通路が開いた。

 吹き荒れる熱風の向こうに、わずかな光が射し込む。


「行けぇぇぇぇッ!!」


 アレンの咆哮が、全員の背を押した。

 リィナの縄が揺れ、レオンの幻が足場を導く。

 ボリスが最後尾で盾を広げ、飛び散る瓦礫を受け止める。


「まだいける! 走れ、全員!」

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