第76話 断罪の聖剣・王の兆し
次の瞬間、黒い外套が一斉に跳ぶ。
「兄さん、下がれ!」
アレンの声が空気を裂く。
だが、アランの足はすでに前へと出ていた。
胸の奥が焼けつく。
鼓動が速くなり、視界が赤く染まる。
何かが――血の底で、目を覚まそうとしていた。
刃が振り下ろされる瞬間、アランの身体を紅蓮の炎が包む。
その熱量は魔術の域を超え、存在そのものを焦がすようだった。
「――《炎嵐・虎砕連牙》ッ!」
轟音が遺跡を震わせ、炎の虎が咆哮を上げて駆け抜けた。
その牙のような斬撃が、空気ごと仮面の群れを切り裂き、爆ぜる衝撃波が壁を穿つ。
砂塵と熱風が渦を巻き、空間を焼き尽くす。
だが――その刹那、アランの手の中で剣が悲鳴を上げた。
刀身がひび割れ、光の粒となって崩れ落ちてゆく。
「……くっ……!」
膝をついたアランは、砕けた柄を見つめる。
その瞳の奥で、金の光が脈打った。
倒れた仮面兵たちが、呻きながらも立ち上がる。
その動きは生者のものではなく、まるで操糸に引かれる傀儡。
「まだ動くのか……!」
ボリスが盾を構える。
だが、アランは手を伸ばして彼を制した。
「下がってくれ……今度こそ、俺がやる。」
その声には、少年らしい震えと、底知れぬ威圧が混ざっていた。
アレンが息を呑む。レオンは、何かを感じ取ったように表情を硬くした。
――空気が変わる。
見えぬ圧が満ち、石床にひびが走る。
アランの足元に、黄金の紋が浮かび上がる。
砕けた剣の破片が宙に舞い、音もなく集い始めた。
光がひとつに収束し、やがて白金の剣が形を成す。
「……なんだ、あの光は……」
リィナが呟き、ラグナが目を見開いた。
「王家伝承に記された――“真実を映す断罪の聖剣”……《リュミエル・ヴェイル》!?」
アランは静かにその剣を握った。
剣身に刻まれた紋章が、鼓動のように明滅する。
その瞬間、空気が一変した。
仮面の群れが一斉に悲鳴を上げ、身をよじった。
白い仮面がひび割れ、焦げるような音を立てる。
「ぐっ……ああああっ――!」
「な、なんだ……この痛みは……!」
光が彼らを焼くのではない。
“嘘”そのものを焼き払っているのだ。
剣が振り抜かれるたび、光が奔り、仮面が砕ける。
露わになった素顔には、恐怖、苦悶、そして涙。
彼らの瞳は、己が背いてきた「真実」と「罪」に怯えていた。
アレンが叫ぶ。
「アラン! それ以上やったら――!」
しかし、アランは答えない。
金の光を宿した瞳は、誰の声も届かぬほど深く、静かだった。
――断罪の光が、最後の一人を包む。
「……許されざるは、虚偽と裏切り。」
聖剣の声とも、アラン自身の声ともつかぬ囁きが、空間を満たす。
その瞬間、遺跡全体が光に呑まれた。