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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第3章 隠蔽された過去 南の都編

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第67話 猩猿の拳、立ちはだかる影



ラースの視線が鋭く閃いた。

「これ以上邪魔されると、あとが面倒だ。これで終わらせる。」


 遺跡の通路を重厚な気配が支配する。

 その掌から放たれる一撃は、どんな防御も貫きそうな威圧感を放っていた。


 アレンは血の滲む肩を押さえながらも、剣を握り締め、必死に前へ駆ける。

 手の震えはあるが、覚悟は揺るがない。


 レーネが槍を構え、声を張り上げた。

「私が止める!!!」


 刹那、ラースの掌が突き出される。

「猩猿弾!」


 轟音と共に、赤い魔力の奔流が通路を焼き尽くす勢いで飛び出した。


 アレンは全力で割って入り、剣を振りかざす。

「ラースさん、これは元仲間に向けていい威力じゃない!」


 だが衝撃波の一部は避けきれず、レーネを直撃する。

 吹き飛ばされた彼女は致命傷こそ免れたものの、体を動かすことはできない。


 

 任務成功率100%。冷徹なアレンの中で、確実に何かが変わろうとしていた。

 守るべきもののため、かつての“指示に従うだけの兵士”としてではなく、彼は初めて本気で抗う覚悟を持った。


アレンはすぐさま駆け寄ろうとした——その瞬間、ラースが冷たく笑った。

「まだまだ青いな、小僧」


 次の瞬間、掌から赤い奔流の魔力が渦巻き、アレンの体を襲った。

 剣を振るい防ごうとしたものの、衝撃は強烈で、彼の足元の石床が砕け散る。

 血の滲む肩をさらに打たれ、体が仰け反る。


 「ぐ……っ!」


 呻きと共にアレンは通路の壁に叩きつけられ、足元の石片に滑りながら倒れ込む。

 剣は握ったまま。しかし、全身の衝撃が骨と筋肉を痛めつけ、思うように動けない。


 視界の端に、倒れたレーネの姿。血が床に広がり、彼女の体が微かに揺れる。

 守りたかった仲間――その思いが、アレンの胸を鋭く締め付けた。


 そして次の瞬間、ラースが足を蹴り上げるように地面を蹴り、巨大な跳躍を見せた。

 地面がえぐれ、砕けた土石が飛び散る。


 「《崩猿跳ほうえんちょう》——!」


 鉄塊のごとき重厚な突進が、通路を震わせながら迫る。

 その直下に横たわるのは、倒れたレーネと、血を流し動けぬアレン。


 アレンの瞳は必死にラースを捉えた。

 全身に痛みが走り、血と汗で視界が揺れる。

 それでも彼の意識は、わずかに仲間を守ろうとする覚悟だけを燃やしていた。


 通路を震わせる衝撃波が迫る。

 剣を握る手が震え、肩の痛みが脳を突き抜ける。

 次の瞬間、アレンは無力に吹き飛ばされ、床に叩きつけられる——


 息が詰まる。目の前が赤黒く揺れ、通路を支配する圧倒的な力の前に、アレンの身体は重く、まるで石のように動かなくなった。

「——間に合え!!」


 アランが地を蹴った。全身に力を込め、剣を握る手に覚悟を固める。

 光の如き速度で滑り込むその刃は、間一髪でレーネと血まみれのアレンの間に立ち、斜めに構えた剣でラースの拳を受け止めた。


 ——ガンッ!!


 剣がきしみ、振動が腕を伝わって背骨を揺らす。

 アランの肩と腕が痛みに耐え、冷たい汗が額を伝う。

「……っくそ……重ッ!!」


 だが押し返した。衝撃でラースの体がわずかに後退し、一瞬、動きが止まる。

 その隙を見逃さず、アレンが歯を食いしばり立ち上がった。

 肩から血が滴り、痛みで全身が軋む。それでも兄弟は並び立つ。


「……アラン、協力するぞ。あいつは、真正面からじゃ止められない」

 アレンの声には、決して揺るがぬ意志が宿っていた。


 アランは短く笑う。

「だったら背中は預ける。お前こそ、ついてこいよ」


 その言葉に、アレンの頬が微かに緩む。

「……了解」


 二人の剣が重なり、地鳴りのような轟音が通路を震わせる。

 ラースの瞳に鋭い光が宿る。赤い魔力が爪先から奔り、壁や床に小さなひびを刻む。


 アランとアレンは互いに呼吸を合わせ、一歩一歩、ラースに迫る。

 衝撃波と赤い奔流が通路を蹂躙する中、兄弟の連携は正確で、互いの動きを体で理解していた。

 アレンが左を、アランが右を守り、攻撃と防御が自然と呼応する。


 ラースの拳が振り下ろされ、地面を砕く。石片が飛び散り、振動が全身を貫く。

 アランは体を斜めにひねり、剣で拳を受け止める。衝撃で膝がガクッと崩れそうになるが、背後のアレンが支え、さらに前へ押し返す。


「これで……終わらせるつもりか……!?」

 アレンが吐き捨てるように叫ぶ。血に濡れた顔が歪む。


「終わらせるのは……俺たちだ!」

 アランの声が通路に響く。光を帯びた剣先がラースの動きを阻む。


 ラースが一瞬、眉をひそめた。その間に、兄弟は互いの呼吸を感じ取り、次の攻撃に備える。

 赤い魔力の奔流と、金属がぶつかる重厚な音が入り混じる戦場の中で、二人の連携は小さな隙を突き、ラースの圧倒的な力に抗う唯一の手段となった。


 通路の空気は厚く、血と汗の匂いが漂う。

 しかし、アランとアレンは揺るがない。痛みも恐怖も、互いを守るための力に変わっていった。

 兄弟の眼差しが交わる。覚悟と信頼だけがそこにあった。


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