表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/186

第62話

跡の奥、崩れかけた石柱の前。

 騎士団と盗賊団の剣戟が響く中、二人だけの空気があった。

 アレンが剣を下げ、じりじりとラースににじり寄る。

 ラースはそれを笑って迎えた。かつての団長の顔に、今は鋭く深い皺が刻まれている。

「へぇ……桜虎のガキが、俺に指図するなんてな」

 低く、掠れた声に嘲りが滲む。

「偉くなったもんだ。副団長だって? “特別騎士団”の看板を背負って、誇らしいか?」

 アレンは言葉を返さない。

 ラースはさらに踏み込んだ。

「……お前の悪名、俺の耳にも届いてるぞ。任務成功率100%。

 どんな犠牲も躊躇わずに“結果”を取る……冷徹な鉄の騎士。宰相の飼い犬。

 どうした?図星か?」

 アレンの瞳が揺れた。そして、声を振り絞った。

「ラースさん……あなた、本当は……優しい人だった」

「……」

「誰よりも国を愛し、仲間を思って戦ってた。俺は、そんなあなたに憧れて……尊敬してました」

 アレンの剣先が、わずかに下がる。

「……反乱を起こしたなんて、いまだに信じてません。

 ただ……間違った道を選んでしまっただけだって、今でも……!」

 ラースは数歩、アレンに近づく。

 砂塵の奥に、朽ちた石像の影が揺れる。

 その眼光は、かつて副団長であった男に向けられたものではなかった。

 まるで、時代そのものを睨んでいるようだった。

「……まだ話が通じるやつなのか。ちっとは安心したぜ」

 ラースは剣を抜かない。ただ、言った。

「だったら……俺を見逃せ。見逃してくれ、アレン」

 その声音には、諦めにも似た感情がにじんでいた。

 だが――その眼は、決して揺れていなかった。

「……おかしなことを言ってるのは、わかってる。

 だが……それでも、進むしかねぇんだよ。もう引き返せないところまで来ちまったんだ」

 アレンの喉が鳴った。息が詰まる。

 剣を握る手が、かすかに震える。

「……ラースさん……」

 交差するまなざし。

 その刹那、背後から響いたのは部下の叫びだった。

「団長!見つけました、これです!遺跡の最新部に繋がる扉――!」

 アレンの視線が跳ねた。

 ラースはそれを遮るように、一歩を踏み出す。

「……もう一度だけ言う。俺のことは、見逃してくれ」

 彼は剣を抜かぬまま、アレンの横をすれ違おうとする――

「……俺のことは、見逃してくれ」

 そう言い残して、ラースはアレンの横を通り抜けようとした。

 だが——

 その背に、鋭く風を切る音が走る。

 チャッ。

 鞘から鋼が抜かれる、冷たい音。

「……できません」

 アレンの声は低く、そして確固たる意志を帯びていた。

「あなたが、どんな理由で動いていようと……今この場で逃がすわけにはいかない」

 ラースの足が止まる。

 その背に、アレンが剣を向けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ