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英雄を夢見た少年は、王国の敵になる ―リベルタス―  作者: REI
第3章 隠蔽された過去 南の都編

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第62話 引き返せぬ者たち

跡の奥、崩れかけた石柱の前。


 騎士団と盗賊団の剣戟が響く中、二人だけの空気があった。


 アレンが剣を下げ、じりじりとラースににじり寄る。


 ラースはそれを笑って迎えた。かつての団長の顔に、今は鋭く深い皺が刻まれている。


「へぇ……桜虎のガキが、俺に指図するなんてな」


 低く、掠れた声に嘲りが滲む。


「偉くなったもんだ。副団長だって? “特別騎士団”の看板を背負って、誇らしいか?」


 アレンは言葉を返さない。


 ラースはさらに踏み込んだ。

「……お前の悪名、俺の耳にも届いてるぞ。任務成功率100%。

 どんな犠牲も躊躇わずに“結果”を取る……冷徹な鉄の騎士。宰相の飼い犬。

 どうした?図星か?」


 アレンの瞳が揺れた。そして、声を振り絞った。

「ラースさん……あなた、本当は……優しい人だった」


「……」


「誰よりも国を愛し、仲間を思って戦ってた。俺は、そんなあなたに憧れて……尊敬してました」


 アレンの剣先が、わずかに下がる。


「……反乱を起こしたなんて、いまだに信じてません。

 ただ……間違った道を選んでしまっただけだって、今でも……!」


 ラースは数歩、アレンに近づく。


 砂塵の奥に、朽ちた石像の影が揺れる。


 その眼光は、かつて団長であった男に向けられたものではなかった。


 まるで、時代そのものを睨んでいるようだった。


「……まだ話が通じるやつなのか。ちっとは安心したぜ」


 ラースは剣を抜かない。ただ、言った。


「だったら……俺を見逃せ。見逃してくれ、アレン」


 その声音には、諦めにも似た感情がにじんでいた。


 だが――その眼は、決して揺れていなかった。



「……おかしなことを言ってるのは、わかってる。

 だが……それでも、進むしかねぇんだよ。もう引き返せないところまで来ちまったんだ」



 アレンの喉が鳴った。息が詰まる。


 剣を握る手が、かすかに震える。


「……ラースさん……」


 交差するまなざし。


 その刹那、背後から響いたのは部下の叫びだった。


「団長!見つけました、これです!遺跡の最新部に繋がる扉――!」


 アレンの視線が跳ねた。

 ラースはそれを遮るように、一歩を踏み出す。



「……もう一度だけ言う。俺のことは、見逃してくれ」



 彼は剣を抜かぬまま、アレンの横をすれ違おうとする


「……俺のことは、見逃してくれ」


 そう言い残して、ラースはアレンの横を通り抜けようとした。


 だが

 その背に、鋭く風を切る音が走る。


 チャッ。


 鞘から鋼が抜かれる、冷たい音。


「……できません」


 アレンの声は低く、そして確固たる意志を帯びていた。


「あなたが、どんな理由で動いていようと……今この場で逃がすわけにはいかない」


 ラースの足が止まる。

 その背に、アレンが剣を向けていた。

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