第59話
そして——
「やれやれ、ほんと、騎士様ってやつは堅物ばっかだな」
リィナが腰に手を当てて笑う。その足元にはすでに、幾つもの罠符が仕掛けられていた。
「レオン。」
アランが振り返ると、レオンはすでに詠唱に入っていた。
「敵対の意志を向けたのは、あちら。遠慮は不要。吹雪いていいか?」
「やれ!」
アランの号令と同時に、戦闘が始まった。
砂漠の静寂が、鋼と魔力の衝突音で破られる。
過去と現在が交錯する遺跡の前で、今、新たな火花が散った。
アランの号令と同時に、レオンの詠唱が完成する。
「──《冷気展開・霜牢》!」
大気が一瞬で変わった。砂漠の熱が、氷の風にかき消される。
地面を這うように冷気が広がり、敵の足元を凍りつかせていく。
「氷の魔法!? 砂の上だぞ……!」
クローナが驚いて跳び下がるが、凍結はその場にいた銀蛇騎団の斥候をひとり捉えた。
「っ……! ルナード、支援を!」
「《反魔式・波動陣》」
ルナードの詠唱がすぐさま重なり、霜を打ち払う魔力の波が空間に炸裂した。
だがその隙を突いたのは、リィナだった。
「おっと、目線が甘いよ」
砂に身を伏せていた彼女が、ルナードの背後から飛びかかる。
鞭のようにしなる短剣が、銀蛇の背に火花を散らす。
「……貴様!」
振り返りざまに斬撃を振るうルナード。だがそれは、空を切った。
「残念、影だったよ」
リィナの残像。罠術と幻影を組み合わせた、彼女特有の撹乱戦術。
一方、前線ではボリスがオリヴァーとぶつかり合っていた。
「よく鍛えてるな! でも、負けねえぞ!」
「言うねぇ! けど力比べなら——俺が上だッ!!」
二人の大盾が激突し、土煙が舞う。
オリヴァーの打撃は重い。だがボリスの鍋盾は意外にも魔術反射のエンチャントが施されており、術と物理の両方に耐えうる。
互いに巨体同士、まるで砂漠に動く岩がぶつかり合っているようだった。
その後ろでは、イダスが回復魔法を施していた。
「《癒しの海》……これで、もう少し耐えられますよ……」
だが彼女の周囲には、すでに罠札が撒かれている。
──バンッ!
炸裂音。イダスの足元に爆煙が立ち上がる。
「っ、見えない……!」
「今のうち! レーネさん、こっちに!」
ルーが叫ぶ。剣を払い、レーネへ道を開けようとする。
しかし——
「ルード……もう、戻れないの。私は……自分の意思でここにいる」
レーネの剣が、ルーの剣を弾いた。
「なぜ……っ、なぜあんなに忠告したのに!」
「それでも、守りたい人がいたのよ」
二人の剣が交錯する。火花が走り、心の叫びが刃にのる。




