第58話
焦げた風が吹きつける砂丘を越え、アランたち一行は遺跡の前に姿を現した。
その瞬間、封鎖線の向こうにいた騎士たちが一斉に身構える。
視線、剣、魔力が交錯する中、先に声を上げたのは銀蛇騎士団のルナードだった。
「立ち止まれ。ここは封鎖中だ、一般の者は立ち入り禁止だ」
「ギルドからの依頼で来たんだ。遺跡内部の調査と回収任務だろ? この通行証、見えないのか」
アランがギルドの証書を掲げ、堂々と前に出る。
だがユリアンがそれを見て、鼻で笑った。
「ふふん、冒険者ねぇ。子どもが宝探しにでも来たつもりか? 遺跡の通行証が紙切れ一枚で通るなら、俺たち騎士団の立場はどうなる」
「こっちは依頼できてるんだ、文句あんのか!」
ボリスが前に出ようとして、アランに止められる。
「そもそも、その依頼、誰が出したんですか?」
ルーが一歩前へ出る。その視線は、ボリスの後ろにいた影に向いていた。
「っ、」
レーネが息を呑む。ボリスの背の陰から、わずかに顔がのぞいた。
一瞬の沈黙のあと、オリヴァーが呟いた。
「——レーネさん」
その声に反応したのは、他の騎士たちだった。
クローナが剣を抜き、ルナードの魔力が一瞬で構築される。
「……元朱猿騎士団の残党だ! 捕えろ!!」
周囲が一気に騒然となる。
「ちょ、待ってください! 彼女は今、何も!」
ルーが慌てて制止を試みるが、すでに剣が抜かれた後だった。
「逃げろって、あれほど言いましたよね!? なぜここにいるんですか、レーネさん!」
「私にも守りたいものがあるのよ。ルード!」
レーネがボリスの横に出て、腰の剣に手を添える。
「くっ、やる気か」
ルナードが前へ出ると、アランたちも構えを取った。
空気が張り詰める。
その中で、ただ一人、動かずアランを見つめていた男がいた。
——アレン・オーガストレイ。
彼は部隊の後ろから一歩前へ出て、じっとアランを見据えていた。
鋭く、何かを探るような視線。
まるで“人”ではなく、“存在”そのものを見極めるように。
(ここで、殺せば、俺は団長になれる。)
胸の奥に走る冷たい思考に、アレンは剣に手をかけかけ——そして、やめた。
ふと、風が吹き抜ける。
アランが一歩、前に出る。
「レーネは関係ない。彼女はもう騎士じゃない。あんたたちと何の関係があるんだ!命令ってだけで元仲間を斬ろうとするなんて、自分の意思がないのか!?」
「“仲間”? 裏切り者の残党と手を組むのか? それでも王国出身の冒険者か、お前は!」
クローナが叫ぶ。
「冒険者ってのはな、どんな立場だろうと、一緒に戦った者を信じるもんだ。何を信じようと自由がなんだ!」
ボリスが大鍋を構える。その目は真剣だった。