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第56話

砂丘を抜け、小高い岩場を越えた先に、目指す遺跡の影がうっすらと姿を現した。風化した塔の輪郭、崩れかけた外壁。遠い昔、誰かが確かにこの地に“理”を築いたのだ。

 レオンが足を止め、陽に焼かれた砂を蹴って呟く。

 「行くなら、さっさと行くぞ。……どうせ途中でまた面倒に巻き込まれる」

 「そんな言い方、縁起でもないわね」リィナが眉をひそめた。

 「実際そうだろ? まともに依頼を終えられた例がいくつあった?」

 「ゼロ、だな!」ボリスが誇らしげに親指を立てる。

 「それ、誇るとこじゃないって……」アランが苦笑した。

 一行は歩きながら、それぞれの目的を確認するように、ぽつぽつと口を開いた。

 「……ま、俺らの目的は単純だよな」ボリスが大きな鍋の縁を撫でながら言う。「ギルドからの特別依頼。遺跡に残された魔導器やら資料の回収、あとは清掃作業ってとこか」

 「裏ギルドとマスターが争った“後始末”ね」リィナが鼻で笑った。「まったく、なんであたしたちがこんな雑務やらされんのか」

 「まあ、ご褒美依頼らしいし……」アランが続ける。「リゼットさんが“今回は旅気分で行け”って。報酬も金貨十枚。ギルド試験の足しにしてくれって言ってたよ」

 「それが罠かもしれないのに、君はよく素直に受け取るね」レオンが冷たい声で言った。

 「それでも信じたいんだよ、俺は」

 その言葉に、レオンはふっと視線を逸らした。

 「……ま、信じるのは自由か」

 その後ろから、ラグナが静かに歩みを進めてきた。背中のスレート板と測量道具が、彼女の職分を物語っている。

 「私の目的は当然、歴史の解明よ。あの遺跡、文献じゃ“ソルヴァルド式魔導構造体”と記録されている。もし内部にその痕跡が残っているなら、近代魔術の流れを百年は塗り替えられるわ」

 「お、おお……」ボリスが目を丸くする。「なんか、わかんねぇけどすごいな! それで金貨ももらえるの?」

 「学術的名誉の方が価値あるのよ。……まあ、金貨ももらうけど」

 「結局もらうんかい」

 前方では、レーネが隊列から少し距離を取り、遺跡の全景を睨むように見つめていた。彼女の瞳には、何か別の色があった。アランがそっと近づく。

 「レーネさん。あなたは……」

 「……この遺跡に、“あの人”の痕跡が残っている気がする」

 「“あの人”って、さっき騎士団で見かけた──」

 レーネはわずかに首を振る。

 「ルードヴィヒ。元・朱猿騎士団副団長。あの“夜”、全ての罪を背負って姿を消した。けれど、私は知ってる。館の宝を盗んだ真犯人は……あいつだ。……団長自身」

 アランは言葉を失った。沈黙の中、レーネの手が左胸を押さえていた。

 「真実を知るために、この遺跡は避けて通れないわ」

 「……分かった」


その会話の間、ずっと無言だった男がいた。

 ハルク――漁師上がりの頼れる案内役だが、今は難しい顔をしている。

 「オレは単純だ。見習いのケツふきだ。最後まで親方として務めるのは当然だが……それよりもこういうの憧れてたんだ、1っ回は冒険してみてってな」

 「カイって短い付き合いだったんでしょ」リィナが眉を上げる。「ほっとけばいいのに、もの好きね」

 「盗賊団に通じてるスパイだった。お館様にもしめしがつかねぇし、一番のお得意様無くしたら商売にならねぇしな」

 「そりゃまた、懸命な判断だな」ボリスが鍋を軽く叩いた。「つまり、敵はこちらの手の内は把握してるってことか」

 「そういうこと。だから油断すんなよ。面白そうだから俺も乗るが、背中は預けさせてもらうぜ」

 「うん、もちろん。俺もみんなを信じるよ」

 彼らの影が、遺跡の入り口へと向かって一つに重なる。

 それぞれが違う目的を持ちながらも、今は共に同じ道を歩んでいる。

 かすかに吹き抜ける風が、かつての時代の気配を運んできた。



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