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第43話

「ねえ……まだ、終わらないの?」

少女の声はかすれていた。金の髪が肩に張りつき、頬には涙の跡。

正面の水晶板には、今も凄惨な映像が流れている。首を切られる兵士、焼かれる村、母を守るために立ち尽くす少年。

「もう……こんなの、見たくない……」

観察窓の向こう、白衣を着た男が手元の記録紙に線を走らせる。

「情緒反応、強。精神負荷値、上限突破。明らかに逸脱。」

隣の助手が囁く。「処置、ですね……?」

「――ああ。適性なしと判断する。記憶封印処理を」

部屋に入ってきたのは、無表情な女魔導士だった。

彼女はしゃがみこむ少女の肩にそっと手を置く。

「怖くないわ、すぐに楽になるから」

「え……?」

その瞬間、薄桃色の魔法陣が少女の瞳に映り――すべてが、静かに終わった。



「十一番、処理完了。失格者は今期で六名に」

「……仕方ないな。強靭な心は、選ばれし者にしか備わらぬ」

窓辺に立つ宰相ゼグラートは、遠く王都を見下ろしていた。

雨に濡れる街。光と影。その両方を支配せんとする者の目がある。

「生き残った子供たちには、“夜の理”を叩き込め。次の段階へ進むぞ」


月光も届かぬ地下の一室。灯るのは青白い魔灯一つ。

その下に集ったのは、宰相直属の使徒たちだった。

椅子に優雅に座ったカレンが、退屈そうに指を組む。

「で、今夜の標的は?」

「東区の騎士寮から。噂を漏らした若造がいたそうだ」

答えたのはガルド。斧を壁に立てかけ、仮面の奥から低く声を響かせた。

「血を見る夜ね。懐かしい」

カレンは唇に指を当て、くすりと笑う。

「それより、あの子……生き残った“No.14”。あの子、ちょっと面白いわよ」

「例の双属性の子か?」とイルマが茶を口に含む。

彼女の声にはいつも香のような甘さが漂っていた。

「言葉は少ないけれど、目がいい。人の嘘を見透かす目をしてるわ」

「ふん。俺の斧にも見えてるぞ。誰が使えるか、誰がゴミか……」

「あなたの斧じゃ、壊すしかできないでしょうに」

軽口を交わしながらも、彼らの眼差しは冷たい。

やがて、部屋の奥の魔導通信機が低く唸り、ゼグラートの声が響く。

『全員、次段階に入れ。選別の夜は、もう始まっている』


ゼグラートは静かに手を掲げる。

王都全域に潜伏した工作員たち――使徒と呼ばれる“選ばれし者”が動き始めた。

冒険者ギルドでは不穏な帳簿が改竄され、

騎士団の中から突然異動命令が下り、

王宮では“静かな粛清”が始まっていた。

そして、その裏で。

眠れぬ夜を過ごす一人の少年がいた。

彼はまだ知らない。自らがこの“選別”の核心に立つ存在であることを。


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