表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/186

第42話

─二十年前。

王都郊外での反乱鎮圧作戦。

敵は、地方で独立的な自治を掲げ、貴族にも媚びず民に尽くした朱猿騎士団。

当時、若き軍参謀だったゼグラートは、彼らを危険因子とみなしていた。

(平等? 正義? ……絵空事だ)

ゼグラートの視線は冷ややかだった。

「民が“理想”を求めるとき、それを与える者が選ばれし者でなければならない。猿が群れて理想を語るな」

彼の下した命令は、斬首・焦土・情報封鎖。

表向きは反乱の鎮圧、実態は“選別に従わぬ騎士団”の抹殺だった。

戦火の中、ゼグラートはひとり、倒れ伏した朱猿団の副団長を見下ろしていた。

彼は血まみれの中で、なおも言った。

「おまえの正義は……鉄と鎖でしか民を繋げない……! 民は……おまえを、望んでなど……いない!」

その声に、ゼグラートの顔がわずかに歪んだ。

「望むかどうかなど、問題ではない。――導けるかどうかだ。選ばれし者だけが未来を定める」

 


夜の聖堂にて、紅猿の一同が立ち上がる。

今や伝説と化した“朱猿”の名を背負い、再び理不尽なる国家の心臓に牙を突き立てるため。

その影を、王都の高塔から、宰相ゼグラートが冷たく見下ろしていた。

「また吠えるか、赤き猿よ。ならば今度こそ、爪も声も、残さず潰すまでだ」

風が唸る夜、因縁の物語がふたたび幕を上げる。




夜の帳が王都を包み込む頃、静かに、だが確実に“それ”は始まった。

王城の奥深く、地下聖堂と呼ばれる禁忌の空間。

聖堂の壁には古の契約と神託を模した偽の紋章が刻まれており、その中央に、ゼグラート宰相は佇んでいた。

周囲に立つのは、〈選別局〉直属の者たち。元騎士、処刑人、かつての賢者、洗脳済みの子供兵──。

どこか人間の情を失った目をして、宰相の命をただ待っている。

ゼグラートの眼前には、厳重に封じられた魔導球と、それに付随する名簿の束があった。

それは、“理想の国家”を築くためにふさわしい人材を集め、ふさわしくない者を排除するための指針。

名簿には、魔力資質、血統、思想傾向、忠誠度、教育環境、戦闘適性などが網羅されていた。

「今宵より、“民”を選別する。

弱者ではなく、弱者を導ける強者だけを残せ。

腐敗した希望も、歪んだ善意も、理想の礎とはなりえん」

静かに告げるその言葉は、淡々と、そして氷のように冷たい。

選ばれし者たちはすでに集められていた。

魔力適性の高い孤児、教育機関で異常な才能を示した少年少女、貴族の血筋に連なるが反抗心を示した子ども。

そのほとんどが自ら“選ばれた”とは知らず、施設内で“指導”を受けていた。

洗脳と再教育によって人格を書き換え、信仰にも似た忠誠を植え付けられていく。

一方で、宰相の配下たちは王都とその周辺で暗躍を開始する。

冒険者ギルド、王宮、地方騎士団、果ては修道院や貴族領の文官にまで、あらかじめ潜伏させていた協力者たちが一斉に動いた。

──標的は「障害」となりうる者たち。


“選別の夜”は表向きには何も起きなかった。

翌朝、王都ではいくつかの屋敷が「夜逃げ」したと噂された。

ある地方騎士団は突然の解体命令を受け、団長は反逆の罪で処刑された。

騎士養成所では教師が数名「転属」となり、教室から静かに姿を消していた。

ただ一つ確かなのは、消えた者たちに共通する点──

それは「宰相ゼグラートの理念に同調しなかった者」だった。

王の命ではない。

議会の決議でも、裁判の結果でもない。

それでも、誰も咎めなかった。

いや、“誰も真実を知らされなかった”が

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ