表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/186

第29話

砂風が肌を撫でるたび、衣の隙間から熱気が忍び込んでくる。

 照りつける陽光の下、アランたちはついに目的地――砂漠の中央にある古い交易所へとたどり着いた。

「ぐあぁああ……だ、誰か……氷水を……!」

 最初に倒れ込んだのはボリスだった。全身から汗を噴き出し、鍋とフライパンを地面に放り投げて砂の上で大の字になる。

「おいおい、倒れる前に荷物置けっての」とリィナが苦笑する。

「……これが……灼熱地獄……」

「気温はともかく、湿度がない分まだマシだ」とレオンがいつもどおりの涼しげな顔で言うと、ボリスが砂に頬をこすりつけながら呻いた。

「お前、どこの氷精霊だよ……くそぉ、砂漠の民はどうやって生きてるんだ……」

* * *

 交易所は、石と土でできた平屋の集合体だ。

 道沿いには簡素ないちが立ち、獣人族の遊牧民や、黒いヴェールを巻いた精霊使い、肩に獣の骨を飾った傭兵たちが行き交っている。

「……ここ、思ったよりもにぎやかね」ラグナが目を細めた。

「昔から、三国の境にある中継地だからね。マルディオナ、ザラン、タバリス……それに海沿いの連中も混じってる」とレーネが説明する。

 ひときわ背の高い獣人の男が、角の取引所で乾いた肉と矢じりを交換している。その傍らには、毛並みの美しい砂馬が並び、遊牧民の誇りを示していた。

 一方、カフェのような日除け付きの店では、ザランの女性たちが冷茶と香辛料の取引をしている。淡い色の布で身を包み、腕には精霊の加護を示す銀の腕輪。

 そして――宿の前では、屈強な男たちが剣と腕を見せ合いながら、賭け試合の交渉をしていた。

「ほらな、あれがタバリスの連中さ。負けた方が飯を奢るってやつだろうな」

 リィナが軽く指を差すと、ボリスが砂から起き上がってぐっと拳を握る。

「おれも一戦交え……いや今はだめだ、体力が足りん……!」

「まずは宿で冷たい飲み物でも頼んで、身体を冷やしましょう」とラグナが静かに促した。

 アランはというと、興味津々で周囲を見回していた。

「……いろんな人がいるな。言葉も服も、ぜんぜん違う」

「交流の中心地ってこういうもんだよ。……盗みとスリには気をつけな」とリィナがぼそっと言う。

 ふと、サンドベージュのフードをかぶった小柄な商人が近づいてくる。

「旅の方々、冷たいヤギ乳と干し果実、いかがです? マルディオナ特産の品です」

「おおっ、ちょうど喉が渇いてた! 一つもらうぜ!」

 ボリスが財布を取り出そうとしたそのとき、アランがそっと言う。

「……全部ください。みんなのぶんも、僕が払うよ」

 そう言って笑うアランの顔に、ラグナが少しだけ目を細めた。

(こういうところ、たまに本当に貴族みたいね)

 取引が終わるころ、交易所の中心で何かの準備が始まっていた。

 祭りか、あるいは旅人たちの定例の集いか。

 この異国の砂交じりの地で、一行の旅は静かに、そして確実に進んでいくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ