表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/181

第12話 酔いどれ蛙


轟音が夜の森にこだました。雷のような衝撃波が木々を震わせ、土を跳ね上げる。

「ぐあッ……!」

 ボリスの鍋盾が軋み、彼の身体ごと吹き飛んだ。

「音波攻撃!? 耳が……っ!」

 レオンが呻きながらも、急ぎ遮音結界を展開する。

「跳ねてくるぞ!」

 アランの叫びと同時に、巨大なガマ蛙のような魔物が、空を舞って降り注いだ。全長三十メートル超、背中には分厚い亀のような甲羅。着地と同時に、大地が軋む。

 それは――《雷手のガメルド》。

「やべぇな……なんだあの化け物……!」

 リィナが鋭く舌打ちする。

 粘液に包まれた前脚が地面を滑らせた。次の瞬間、両手を叩く。

「ドォォンッ!!」

 衝撃波が音の壁となって押し寄せた。

 防御を間に合わせたレオンとリィナを除き、アランとボリスが吹き飛ばされる。小屋はとうに潰され、逃げ場はない。

 だが、そのとき――

「……酒に、弱そうだな」

 不意にゴードンが呟いた。

「え?」

 全員の視線が、荷車に飛び乗ったゴードンに向けられる。

「アイツ……酒の匂いに釣られて来た。ってことは……」

 その顔に浮かんだのは、酔竜の異名を持つ男らしいニヤリとした笑みだった。

「よぉし、モーク! “祝い酒”をくれてやれ!」

「ボォ〜ン!」

 モークが鼻を鳴らし、器用に小さな樽を口にくわえて振りかぶる。

「いっけええええッ! 一升瓶アタァァックッ!!」

 小樽がポイ、と緩く投げられ、回転しながらガメルドの足元に転がった。

 ……クン。

 巨大な鼻先が、酒の匂いを嗅ぐ。

「飲め! 飲め飲め飲め!!」

 アランの叫びとともに――

ベロォ……ンッ。

 長くぬるりとした舌が伸び、小樽ごと樽酒を口内に吸い込んだ。

 しばしの静寂。

 そして。

「……クォォ……グラ……ラ……」

 ガメルドの巨体がふらり、とよろめいた。

「お……おい、酔ってないか、あれ?」

 リィナが半信半疑の声を漏らす。

「マジで!? 本当に酔ってんの!?」

「バカみたいに酒弱いんだ、あいつ……! よし、作戦変更だ! “酔わせて倒す”作戦だ!!」

 ゴードンが叫び、モークが次なる小樽をくわえる。

「今だッ! “モーク弾丸酒タックル”ッ!!」

 モークが加速し、ガメルドの下顎めがけて一直線に小樽を放る。命中。

 ガメルド、二度目の酔い。

「グラ……グララ……ボン、ボン、ボォ〜♪」

「踊ってる!? いや、回ってるだけか!? どっちでもいいけど隙だッ!!」

 アランが飛び出した。レオンが支援呪文を唱える。

「《氷の刃、影を穿て──闇鏡氷葉》!」

 足元が滑り、ガメルドがよろめく。

 そのとき、リィナがナイフを投擲。ナイフにはレオンの氷と雷の混合魔法が込められていた。

「食らいなさい! 《雷芯》!」

 命中。雷光が口内を弾ける。

「よし……今だ!! アランッ!」

「風牙・――《虎砕ッ!!》」

 跳躍したアランが、雷に晒された内部へ剣を突き立てる。ちょうどそのとき、ガメルドが酔って仰向けに転倒し、分厚い甲羅の裏がむき出しになっていた。

「ボリス!」

「いっけえええ! 《鉄皿衝ッ!!》」

 巨大フライパンが振り下ろされ、鍋の盾で押し込み、硬い腹甲に叩きつける。亀甲にひびが走る。

 雷、氷、風、鋼、そして――酔。

 すべてが交差する瞬間だった。

 ガメルドが、地鳴りを上げて倒れ伏す。

「……や、やった……」

 リィナが肩で息をしながら呟いた。

「まさか、本当に……酒で……」

 レオンが呆然とし、ボリスが空になったフライパンを掲げた。

「うおおおぉぉ!! 勝利ィィィ!!」

「いや、今回は酒のおかげだろ……」

 アランが笑いながら倒れこむ。

「ったく……誰だよ、この腕輪“モテる”って言ったやつ……!」

 リィナがぷいっと顔をそむけ、腕輪をそっと外す。

「“モンスターに”モテる、って注意書きがなかったのが悪いわ」


 ゴードンはというと、倒れたガメルドの背で、モークと乾杯していた。

「竜も魔物も、やっぱ酒が命だなァ……」


 静寂が、森を包んでいた。

 あれほど激しく降っていた雨は、いつの間にか止んでいた。雲の切れ間から、ほんのわずかに星がのぞいている。どこか遠くで、フクロウが低く鳴いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ