第11話 大型モンスター襲来
降りしきる雨の中に、ぬらぬらと光る巨大な影――背丈はゆうに三十メートルを超え、粘液のような皮膚に覆われた、カエルのような口をした異形のモンスターが立っていた。
……だが。
「え、なにあれ……なんか、ちょっと小躍りしてない?」
リィナが言った通り、モンスターは確かに――妙なリズムで首を揺らし、どこかのんきなステップを踏んでいる。
「気持ち悪っ! けど……くるぞッ!」
アランが剣を抜き、雨の中に飛び出す。レオンが直後に呪文を唱え、敵の足元に氷の魔法を放つ。
「《氷結連鎖》!」
足元が凍りつき、敵の動きが一瞬止まる。
その隙に、リィナが敵の背後へと回り込む。風のように滑り込む動きは、まさにプロの盗賊。手には小さな刃が光っていた。
「急所、見せなさいよ!」
素早く跳び上がり、敵の首元を狙って一撃を入れるが――
「効いてない!?」
刃は深く刺さるが、弾力のある皮膚に吸収され、致命傷には至らなかった。
「じゃあ、俺がいくぞぉッ!」
ボリスが巨体を揺らして突進する。フライパンを思いきり振りかぶり、地面を踏み鳴らしながら叫んだ。
「《挑発》! こっち向け、でっかいカエル野郎ッ!」
精神波のような魔力が放たれ、モンスターの注意が一瞬ボリスへと向かう。だが次の瞬間――
「……え?」
モンスターがくるりと視線を変え、リィナを凝視した。
「なんで!? 僕に挑発かけたのに!」
「……ちょっと、まさかこれのせい?」
リィナが腕を上げて見せたのは、昨夜バルツから貰った銀の腕輪。宝石が赤く光り輝いていた。
「……まさか“モテる”って、こういう意味!?」
次の瞬間、モンスターが再び跳ね上がり、巨大な腕でリィナに向けて――
「リィナ、伏せろっ!」
彼女が地面に着地した瞬間、モンスターが弾かれたように突進した。
「リィナ危ないッ!」
アランが跳び込んで受け止めようとするが、あまりの質量に間に合わない。
ドォンッ!!
リィナが弾き飛ばされた。木の幹に背中を打ちつけ、うずくまる。
「くそっ、あの腕輪……!」
「アイツ、リィナを“狙って”る。挑発も効かないってことは――完全に魅了されてるな」
レオンが冷静に告げる。
「どんなモテ効果だよ……!」
アランは前に出る。リィナが立ち上がるのを確認しながら、剣を構える。
「レオン、氷でもう一度、動きを止めてくれ!」
「……まだ冷却が足りない。時間を稼げ!」
「ボリス、守りに回れ!」
「任せろォ!」
大鍋の盾を構え、ボリスが敵の突進を真正面から受け止めた。鍋の底が軋み、雨水が跳ねる。
「ふんぬっ……これが、鍋タンクの本気だ……!」
「よし、今だッ!」
アランが左に回り込み、剣で斬りつける。リィナも背後から一閃、刃を沈めるが――
やはり決定打にならない。
粘液と肉が刃を吸収し、断面からはすぐに再生の兆しが見える。
「ダメだ……再生する。やばい、持久戦はまずいぞ!」
そのとき。
レオンが冷たい声で告げた。
「急所は、口腔内。あれだけの粘液、防げる場所は限られてる。内部を焼くしかない」
「……内部、ね」
アランが息を整える。
「やってみる。ボリス、ちょっとだけ顔をこっちに向けてくれ!」
「よーし、だったらこっちは――最大火力だッ!」
ボリスがフライパンで焚き火を掬い上げ、モンスターの視界を引くように炎を放つ。
「こっち見ろ、カエルちゃんッ!!」
モンスターが大口を開け、飛びかかる瞬間――
アランが跳び上がった。
「喰らえッッ!!」
雷雨の中、剣に込めた全力の一撃が、モンスターの開いた口に突き刺さる。
断末魔のような咆哮が、夜の森を揺らした。