第7話 迷い、葛藤
その夜。
街頭の光が照らす影の中で、アランは一人、目を閉じていた。
リィナも、仲間たちも眠りについた静寂。だが、アランの胸の中だけは騒がしいままだった。
「……双子の弟、か」
木の幹にもたれながら、アランは小さく呟く。
あの冷たい眼差し。確かに、少しだけ似ていた。
輪郭。声の調子。微かな仕草――どこか懐かしさを感じた自分がいたのも事実だった。
「俺に……弟なんて、いたのか?」
記憶の底を探ってみても、思い出せない。
幼い頃の記憶は、ひどく曖昧で、断片的だった。
気づけば、孤児として育ち、冒険者として生きていた。
それが当たり前だと思っていた。
だが――もしアレンの言葉が本当だとしたら。
自分は、何を知らされずに生きてきたんだ?
「捨てられた……って、どういうことだよ」
握った拳が震える。
怒りなのか、悲しみなのか、わからない。
心に刺さった棘が、抜けずに疼き続ける。
「俺は……何者なんだ?」
誰に問うでもなく、虚空に投げかけたその言葉は、街の音にかき消されていった。
アランはうつむいたまま、何も言わない。
リィナはそんな彼の横顔をちらりと見て、ため息混じりに立ち上がった。
「悩んでも、あんまり変わらないわよ」
「……は?」
アランが顔を上げると、リィナは腰に手を当てていた。
月明かりの下、その目はいつになく真っ直ぐだった。
「家族がどうとか、過去がどうとか――わかるけど。今さらどうしようもないことを、ぐるぐる考えてても、朝になるだけよ」
「……」
「だから私は、動くわ。何か知ってる人がいるかもしれないし。情報は自分で取りに行くもんでしょ?」
「……どこへ行くつもりだ」
「酒場。情報と酒は、古今東西そこに集まるのよ」
リィナは軽く手を振ると、背を向けて歩き出す。
「ちゃんと復活しときなさいよ!私が戻るまで、くよくよしないで。……なるべく」
アランは思わず吹き出しそうになったが、それも喉の奥で止まった。
代わりに、小さく呟く。
「……ありがとな、リィナ」
風に紛れて、その声が届いたかどうかはわからない。
だが、リィナは軽く片手を上げ、夜の街へと消えていった。