第6話 神の使いとヨミ婆
セリーヌの朝。
平穏なはずの通りに、突然の怒号が響いた。
「神の啓示じゃ~~~!頭のよいヤツ、出てこい~~!!」
空から何かが舞い降りた。白い影が一直線にアランの頭に――
「うわっ!何か乗った!?」
「我こそは神の使い、サミュエル。選ばれし者よ、神の三問に答えるがよい……!」
「またクイズかよッ!」
レオンが眉をひそめ、リィナはため息をつく。
「で、今度は誰が“神様です”って名乗るの?鳥?」
「うむ。神とは形を持たぬが……この羽根、ただ者ではあるまい?」
その威厳ある(ように思えなくもない)白い鳥の前に、突然影が差した。
「おや!?鳥!?喋ってる!?かわいい~~~♡♡♡」
華奢な体が勢いよく飛び込んできた。
水色のツインテール、アクアブルーの瞳。
セリーヌ滞在中の天才聖女――ミア・エスペランス、突然の乱入である。
「えいっ☆」
彼女はサミュエルを軽々とひょいと抱き上げ、頬ずりを始めた。
「こらッ!神の使いに何をする!?やめぬか少女よ!!」
「おぉー怒ってる怒ってる!ふふ、かわいい~~!」
「……神の使い、だいぶ扱いが軽いな」
「むしろ普段のミアちゃんが信仰を軽んじてる説ある」
「神の三問を通れば、真なる信徒の証が得られる……と申しておるのだが……」
サミュエルが少ししょんぼりして木の枝に戻ると、後ろから声がかかった。
「なぁに、クイズ大会かい?」
まるでタイミングを見計らったように現れた老婆――ヨミ婆。
肩にはもう一羽、色違いの鳥がちょこんと止まっていた。
「やっぱり!この子、婆ちゃんちの鳥だったんだねぇ!」
ミアが指差す。
「いや、ワシのじゃなくて……あんたが昔、餌あげてただけじゃろ?」
「えっ、私?……あっ☆ なんかそうだったかも!」
ヨミ婆はひとつ咳払いして、手にした茶碗を掲げた。
「まあええ。神の声が聞きたいなら、三問に答えてみな。神の三問じゃ!」
「じゃあ、いっちょ勝負だねっ☆」
ミアが勝手に参戦ポーズを取った。
【第一問:神は誰に微笑む?】
「……笑ってる人、かな?」
アランがぽつり。
「うんうん、それわかるぅ☆ミアも好きな人が笑ってると、つい回復しすぎちゃうもんね!」
サミュエル「正解!」
【第二問:最も偉大な祝福とは?】
「うーん……分けてあげること?」
アランの回答に、ミアが手を叩いた。
「わかるぅぅ~~!お菓子とか、回復魔法とか、余った分あげるとみんな笑顔になるよね☆」
サミュエル「正解!」
【第三問:神が沈黙する時、それは……?】
「……誰かの話を、聞いてる時、かな」
またもアランが口にした言葉に、ヨミ婆とサミュエルが同時にうなずいた。
ミアはにっこりと笑って、手を合わせた。
「そっかぁ……神様も、誰かの声をちゃんと聞こうとするんだね。すごいなぁ……」
サミュエル「……合格じゃ。おぬしら、なかなかの信心を持っておる」
空に舞い上がるサミュエル。魔力が尽きたのか、ふらりと空へと消えていく。
「また来るぞー、クイズ番組~~!」
「今度は司会に指名しろ~~!」とミアが叫ぶが、すでに鳥は消えていた。
「……にしてもミアちゃん、急に現れて急に参加してったな」
「いつもじゃない?」
「でも……神様って、ほんとにどこかにいるのかもね」
リィナがぽつりと言った。
ミアがそれに答えるように、ふわりと笑う。
「うん。だって――神様は、遊んでくれるんだもんっ☆」
アランはふと、空を見上げた。
今日の雲は、なんとなく、笑っているように見えた――