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第4話 甘く広がる、繋がりの輪

その店は、白い漆喰の壁に赤い木扉が映える、花屋のような外観をしていた。

中には、宝石のようなゼリーや焼き菓子、カスタードの詰まったクリームパフが並び、どれも甘い香りを漂わせている。

「……やっべ、全部うまそうだな……」

アランが鼻をひくつかせながら、ガラスケースに張りつくようにして見ていた。

「さっきパン食べたばかりでしょ」

リィナが呆れたように言いながらも、彼女の目もすでにケーキに釘付けだった。

「俺、もうちょい魔法、強くなりてぇな」

ふとアランが呟いた。

「なによ、スイーツ食べながら急にどうしたのよ」

リィナが首を傾げる。

「いや、強くなるって決めたしさ。……最近、強い敵が多いから」

「……わかる、私も。剣はともかく、魔法はまだまだ感覚だけで、全くなのよね。」

「そしたら――」

そのとき、不意に後ろから柔らかな声がかけられた。

「魔法の訓練……ですか? もしよければ、教会で教えてくれる方がいますよ」

振り向くと、そこには淡い水色の髪を揺らす少女が立っていた。

年はアランたちとそう変わらないが、白い上衣に教会の紋章をつけた外套を羽織っている。

「私はフローレットといいます。教会の奉仕活動をしている者です。さっき、お二人の話が聞こえてしまって」

「教会が、魔法を教えてるのか?」

アランが目を丸くする。

「はい。といっても、戦闘用の魔法というより“基本的な魔力制御”や“精神集中”などが中心です。冒険者の方が訪れることもありますよ」

リィナが腕を組み、小さく頷いた。

「……なるほど。あんた、見た目と違って頼りになりそうね」

「ふふ、見た目と違って、ですか? 初対面の方にはよく言われます」

フローレットは柔らかく笑った。

「もしよければ、案内しますよ。教会の訓練場は午後から空いていますので」

アランとリィナは顔を見合わせた。

「……どうする?」

「行ってみてもいいかもね。今のうちにできることはしておきたいし」

「よっしゃ、決まりだ!」

その言葉に、ボリスがにこにこしながら声を上げた。

「じゃあ俺はその間、旅の準備でもしておくよ! あと、オルフェスのグルメマップも作っておくからね!」

「いやお前……本当に何者だよ」

アランが呆れながらも笑った。

小さな出会いと、街の片隅での決意。

それが、次の一歩へと繋がっていく。

甘いスイーツと穏やかな午後の光の中で――。

神殿の扉をくぐった瞬間、冷えた空気と、厳かな沈黙がアランたちを包んだ。

外の喧騒が嘘のように消え、祭壇に差し込む光が、銀の粒子のように舞っている。

「……すごく静か」

リィナが思わず小声になる。

「足音も響くな」

アランも、いつになく真面目な表情をしていた。

その案内役を務めるフローレットは、清らかな笑みを浮かべながら二人を振り返った。

「ようこそ、光神殿へ。訓練場は奥になります。ご案内しますね」

奥の訓練室には、魔力を抑える結界が張られており、魔法の基礎練習を安全に行えるよう設計されていた。

祭壇のような魔導陣の上に、アランとリィナはそれぞれ立ち、息を整える。

「それでは始めましょう。今日は“属性魔法の基礎操作”――まずは、あなたの魔力の流れに合わせて、エレメントを引き出す練習です」

フローレットは穏やかに告げると、それぞれに術式の基本構造を教えていった。

アランの掌に、小さな風が集まり始める。

だが、拡散したかと思えば、次は小さな火が暴発しかけて焦げた。

「うおっ!? あっぶな!」

「焦らず、集中です。魔力は“意志”に従って流れます」

フローレットが静かに諭す。

一方、リィナは雷の火花を手に集めようとしていたが――

「ちょ、ビリッときたわ!」

「それはあなたの魔力が強すぎるせいかも。もう少し力を抜いて」

互いに悪戦苦闘しながらも、基礎の感覚は少しずつ掴めてきた。

何より、教える側のフローレットが驚くほど丁寧で的確だった。 

しばらくして、

「アランさん、よければ、これも試してみませんか?」

フローレットが取り出したのは、聖属性の初歩的な感応式だった。

アランは怪訝な顔をしながらも、それに従って魔力を込めてみる。

……しかし、何も起きなかった。

風も火も感じなかった。

けれど――フローレットの瞳だけが、静かに揺れていた。

「……不思議ですね。あなたの“光”は、まだ目覚めていない……けれど、誰かを救う“運命”を持っています」

アランは戸惑いながらも、なんとも言えない重みのある言葉に、返す言葉を失った。

「なんだよそれ、意味わかんねぇぞ」

「今は、わからなくても大丈夫です」

フローレットは微笑みながら言ったが、その表情にはどこか――祈るような切実さが滲んでいた。

 

その後ろで、訓練場を見守っていた老神官が、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「うむ……彼の魔力の通りは粗削りだが、芯がある。風も火もまだ荒ぶっているが……伸びるな」

「グレゴール神官長」

フローレットが恭しく一礼する。

「はじめまして。私がこの神殿の神官長――グレゴールと申します」

白く豊かな髭と、手入れされた外套。

だがその頭部には、やや不自然に浮いたカツラが載っていた。

誰もそれに触れないあたり、かなりの人格者なのだろう。

「君の名は……アラン、だったか。勇敢な戦士によく似合う――良い名前だ」

「そ、そうっすか」

「今日だけでは、教えられぬことも多い。明日も来なさい。基礎が身につくまでは、責任を持って教えよう」

その目は、まるで何かを見透かしているようだった。

だがその声には、厳しさよりも温かさがあった。

「……わかりました。よろしくお願いします!」

アランは、ぐっと背筋を伸ばして頭を下げた。

その姿を見て、リィナも微笑を浮かべる。

「なら、あたしも付き合うわ。雷はまだ癖があるしね」

「感心感心。――これからの成長、楽しみにしておるぞ」

神殿の窓から差し込む光の中、

新たな師と、新たな一歩が、静かに始まろうとしていた。

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