表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/186

プロローグ

昼過ぎのギルドは、いつもより少し賑やかだった。

扉を開けて入ってきたアランたちの姿に、いくつかの視線が集まる。


「ただいま戻りましたー……!」


アランが息を吐きつつ、受付へと歩み寄る。

背中には埃と疲れ、けれどどこか誇らしげな空気があった。


「――ずいぶんと、手紙を届けるのに時間がかかったわね?」

カウンターの奥、冷ややかに声をかけたのは、受付嬢のリゼットだった。


腕を組み、ジト目でアランを見下ろしている。


「うっ……す、すみません……」

アランがばつの悪そうに頭を下げると、すぐ隣でレオンが肩をすくめた。


「いろいろと……巻き込まれまして」


「ふぅん? でもまたアランに無茶をさせたんじゃないでしょうね、レオンくん?」


「えっ、それ僕の責任なの!?」


「シェリルから報告受けてるの。あの子、ちゃんと書いてたわ。“氷と闇の魔術師”が、無茶させすぎ”って」


「あの人、面白がって報告してるな…」


レオンが天を仰ぐように嘆くと、奥からグランが豪快に笑いながら現れた。


「まぁまぁ、そのへんにしてやれって。レオン、お前Fランクに上がったんだろ? おめでとう!」


「ありがとう、ございます……」


「それに、アラン、新しい武器になったって聞いたぞ。ちょっと見せてみろよ!」


「へ? あ、これっすか」


アランが背負った剣を見せると、グランは眼鏡を押し上げ、ニヤリとした。


「ほぉ~、良い刃だ。魔力回路が改造されてるな。だが妙に馴染んでやがる。」


「……なあダグラス、こいつ一皮剥けたんじゃねえか?」

背後から現れたのは、筋骨隆々のダグラスだった。


腕を組み、じろりとアランを見据える。

「ふん、見違えたな。試すか? 訓練場でちょっと手合わせ――」


「やめてぇぇぇ!! 今は戦いたくないっ!」


「ハッハッハ! ダグラス、今のアランにゃ負けたら恥だぞ。Gランク様だからな!」


「グラン! それ大きな声で言うなよっ!!」

わちゃわちゃと騒ぐ若手を横目に、別のカウンターではノランが眉をしかめていた。


「おい、お前ら。素材はこれで全部か?」


「はい、これ全部。文句ある?」

リィナが軽く腰に手を当て、ポーチを差し出す。

「……まぁ、悪くはねぇな」


「珍しく褒めたわね、ノラン」

別カウンターで鑑定をしていたイリナが、冷たく言い放つ。

「でも、ちょっとは上達したじゃない。前回よりは、ね」


「さすが……イリナさん、今日も容赦ないっすね……」


「当然でしょ?」

にべもなく言い捨てた彼女の言葉に、アランが小さくうなだれる。


「ちょっとちょっと! 私のこと忘れてない? リィナ様が初登場なんだけど!」

割り込むようにリィナが手を挙げる。


「お、おう……リィナは新メンバーです! 今回一緒に依頼にあたってくれて、すごく頼りになって……」


「ふん、もうちょい気の利いた紹介しなさいよ」


「ご、ごめん……」


「ふふっ、さらに、にぎやかになったわね。面倒見もいいって評判みたいだし、安心だわ」

リゼットが、少しだけ微笑んだ。


「次の依頼は慎重にね。今度こそ、報告書に“重傷”って書かせないでよ?」


「はい、気をつけます……!」


「さて……今回はギルマスからプレゼントよ。無茶して成果を出したご褒美ってやつ。――ほら、新しい依頼もあるから」

リゼットはさらりと告げる。


「それと、ティナちゃんとドランくん。二人ともFランク昇格してたわね。その後中堅のパーティに加わったみたいよ」


「マジで!?」


「早いな、あの二人……」


「あなたたちもそろそろ正式に登録しなさい。はい、考えといてね」

言い捨てるようにそう言って、リゼットは淡々と紙束を整える。


「……なあ、やっぱリゼットさん、俺にだけ当たりきつくない?」


「だから、あんたが毎回無茶するからでしょ?」

リィナの即答に、アランはがっくりと肩を落とした。


「それは仕方ないとして……なぜ俺まで怒られなきゃならんのだ」

とレオンがぼやいたが、誰にも拾ってはもらえなかった。


【Fランク特別任務】

南方・オルフェス支部 遺跡内の魔道具回収業務・残留確認

【概要】

南の遺跡調査任務の後処理として、未回収の魔道具や遺留物がないかの確認調査を依頼します。

※任務完了後の軽作業につき、信頼ある若手冒険者に任せたいとの支部長要望あり。

【報酬】

金貨10枚+宿代・補給費支給


リゼットは依頼票を一枚抜き出すと、手元で軽く叩きながら説明を始めた。


「で、今回の任務だけど――」

彼女の視線が、アラン、レオン、リィナの順に流れる。


「内容は単純。『南方オルフェス支部の遺跡、魔道具の回収漏れと放置品の確認』。ざっくり言えば、後始末の確認作業ね」


「後始末……ですか?」

アランが首をかしげる。


「ええ。遺跡調査はもう終わってるんだけど、一応“念のため”ってやつ。保管倉庫や保護区画の確認と、現地係員との照合作業もあるわ」


リィナが眉をひそめる。

「ふーん。なんか、めちゃくちゃ地味なんだけど」


「雑用寄りではあるけど、支部長から“信頼できる若手に任せたい”って。……あなたたちに、ギルマスが用意してくれたのよ」


「ギルドマスターが……!」


「まあ、信頼って言うか“よく働かせやすい”って意味じゃ……」

レオンが低く呟いたが、リゼットは聞こえなかったふりで続けた。


「ギルドとしても問題ないとは思ってるけど、一応形式的に通しておきたいの。だから肩肘張らずに、しっかり確認してきて。報酬は金貨十枚、宿代・補給費も支給。破格でしょ?ちょっとは気を抜いて楽しんできなさい。」


「ふーん。じゃあ本当に確認だけってわけね?」


「ええ、“何もなければ”作業自体は半日で終わるくらいの仕事よ。――“何もなければ”ね?」

リゼットは最後に少しだけ意味深に笑った。


「……その笑い方、やめてくださいよ……」

アランがうめいた。


「はいはい、じゃあ以上。行く前に荷物点検しなさいね。……あと、無茶は禁止よ?」

念を押すように言うと、リゼットは帳簿に視線を戻した。


「……楽な仕事だなー、本当にご褒美じゃない。金貨10枚は破格ね。」

任務票を読み終えたリィナが、まぶたを軽く伏せるようにして言った。


「今から行くか?」

アランがすぐに前のめりになる。だが、予想通りレオンが手を挙げて止めた。


「待て。少しは学べ。帰ってきたばかりなんだ。ちょっとくらい休め」


「ですよねー」


「それに、せっかく王都に来たのに。そのまま遺跡戻るなんて、つまらなすぎるでしょ」

リィナがくるりと踵を返し、アランの袖をつまんだ。


「案内してよ。市場とか、美味しいごはん屋とかさ。ね?」


「え、俺? 俺ってそんなに詳しく――」


「アランは“しんじつ亭”と“鍛冶屋”と“訓練場”しか知らないからな」

レオンの鋭いツッコミに、周囲から再び笑い声が漏れる。


「ぐぬぬ……」


「じゃ、決まりね! 今日は観光! 任務は明日で!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ