表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/181

第71話 ギルドマスター集結

灰色の雲が重たく垂れ込める朝

ラトール中央ギルド本部の会議室には、ふだんは交わることのない顔ぶれが集まっていた。


「これで全員じゃな。10人も、暇なんじゃな。」

最奥の席にいた白髪の老マスターが、冗談混じりに声を上げた。


楕円の長卓の周囲には、十人のギルドマスターが座る。

地方支部の長、古株の相談役、かつて「伝説」と呼ばれたパーティのリーダー


「皆、すまない。忙しい中、よく集まってくれた。」

本部ギルドマスターのゼルヴァ・クロスウィンド。


卓上には、未明にまとめられた報告書の束。

魔力密造、洗脳事件、組織の一部逃亡。

ページをめくるたび、空気がさらに重くなった。


「何その資料、嫌になるわね」

「平和なら、ここに集まることなんてないよな」


「この件は、私の責任でもある。」

ゼルヴァが、低く、しかしはっきりと言った。


言葉の端に、いつもの苛烈な気迫はなかった。


「過去の因縁を切り離せなかった……俺が、もっと早く動けていれば……」


「おいおい。」


白髪の老マスターが、感心したように声をかける。

「お前、ギルドマスターになってから随分変わったじゃないか。

あの頃の無茶ばかりしてた小僧とは思えんよ。」


「……変わらなきゃならなかっただけだ。」

ゼルヴァは伏せた視線のまま、言葉を絞り出す。


「ふん、殊勝なものね。」

やけに軽い調子で、隣の女マスターが書類をつまんだ。


「けど――あなたが責任を取るなら、私、本部のギルドを喜んで代行しましょうか?

やっとあなたを追い越すチャンスですし。」


「俺らは」

ゼルヴァの 声がかすれた。


何かを言いかけたそのとき、卓の中央に座っていた大柄の男が手を叩く。

「やめてやれ。」


バズ・ハンガルド。ギルドマスター古参の一人だ。


「こいつに全責任を被せるのは違う。わかってるだろう、お前ら。」

低く太い声が、静まり返った室内に響く。


「相変わらずおせっかいだけは変わらんのねぇ。」

女マスターは肩をすくめる。


「何が悪いんだ。」


バズは淡々と続けた。

「弱ってるからって言葉で刺すのは感心しない。」


「……ああ。そうやってかばうところも、昔と同じだな。」

別の初老の男が鼻を鳴らす。


「だがゼルヴァ、言わせてもらうが――

あの時お前が無理やり旗を振った責任もあるが、俺たち全員だ。

立候補もせず、お前に全部押し付けておいて、今さら非がない顔はできん。」

ゼルヴァは顔を伏せ、静かに頭を下げた。


「……ごめん。みんな……俺一人じゃ、もうどうにもできない。協力してくれないか。」

重苦しい沈黙が落ちた。


だがそれは、拒絶の気配ではなかった。


「……ったく、成長するもんだな。」


「弱音を吐くなんて、お前らしくもない。」


「……まあ、ここで手を引くわけにもいかんだろう。」


「これ以上の勝手は、俺も許せん。」


一人、また一人と声が上がる。


「勝手にひとりで背負うな。」


「当たり前だ。お前だけの問題じゃない。」


「手くらいは貸してやる。」


「……仕方ないですね。」


「全部片付いたら、一杯奢れよ。」

小さな笑いが混じった。


それは、長い時を共に戦った者たちだけが交わせる笑みだった。

ゼルヴァはようやく顔を上げる。


疲れ切った瞳に、少しだけ光が戻っていた。

「……ありがとう。」

バズが立ち上がる。


「これから先、もっと厄介なことになる。覚悟はいいか。」

ゼルヴァは一度だけ深く息を吐き、うなずいた。


「――ああ。今度こそ、全部終わらせる。」

朝の光が、会議室の古びた窓から差し込む。


その光の中に、かつての仲間たちの決意が再び交わっていた。


ラトール冒険者ギルド、正午の昇格掲示板。

試験を終えたばかりの冒険者たちがざわめく中、レオンがひときわ静かな顔で戻ってきた。


「……合格だったよ。Fランク昇格。」


「おおっ、やるじゃねえか!」


アランが思わず声を上げた。

が、その声もどこか悔しそうだ。

というのも――


「ふふん、私はEランクに昇格よ!」

リィナが得意げに胸を張る。


「うぅ……なんだよ、それ……」


アランは思わず唇を尖らせた。


「ま、まあ……俺だって、本当は受かってたはずだし!怪我がなけりゃ、俺の方が絶対強いんだからな!」


「へぇ~?Gランクの子犬ちゃんがよく吠えるわね。」


リィナがからかうように肩をすくめる。


「ぐっ……!うるせえ!」


「僕は普通に昇格したけど。」


レオンは相変わらず無表情で、ひょいと証明書を見せる。


「ふん、まあ私はEランクだし?しばらくは二人とも、まだまだ子犬ちゃんね。」


「こ、子犬じゃねえ!!」


アランが真っ赤になって抗議する。


「じゃあ早く傷治して、次の試験でも受けたら?あんたにはお世話になってるし、多少は期待してるわよ。」


リィナは少しだけ優しい声で言った。


「……期待してるって言うなら、最初から素直に言えよな。」


「言わないわよ、恥ずかしい。」


レオンが肩をすくめて、珍しく口元を緩める。


「……ふたりとも、仲がいいんだか悪いんだか。」


「うるさい!」


「余計なこと言わない!」


声が重なった。


その小さな騒ぎに、ギルドの受付嬢がくすりと笑う。


まだGランクのアラン。

Eランクに上がったリィナ。

Fランクに昇格したレオン。

けれど、その差よりもずっと確かなものがあった。


まだ細く切れてしまいそうな絆だが、この三人がこれからも共に歩いていくんだという、

ちょっと不格好な胸躍る旅路の幕開けだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ