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第68話 終焉の結晶

奥の部屋への扉を開けた瞬間、重苦しい空気が流れ出した。

そこには、薄闇の中で数人の人影が鎖に繋がれ、朦朧とした瞳で壁を見つめていた。


「……錬金術師たちだ」


アランは息を呑んだ。


白衣の裾は汚れ、肌は蝋のように青白い。

胸元に埋め込まれた魔道具が、淡く脈動している。


「魔力搾取……これ以上は命に関わる」


ヴィルマが低く呟き、道具袋から小瓶と短い杖を取り出す。


「この封印を解除するわ。アラン、彼らが倒れないよう支えて」


「わかった」

ヴィルマの指先から細い光が迸り、一つ一つの拘束が外れていく。


解放された術師たちは、弱々しく震えながら、涙をこぼした。

「もう、大丈夫なのか?」「助かったんだ」「このまま死んでしまうかと」


誰かのかすれ声が、闇に滲んだ。



その時、奥の通路から駆けてくる足音が響いた。


「レオン?」


アランが振り向くと、煤けたマントを翻し、氷の魔力を纏った青年が現れた。


肩には傷が走り、呼吸も荒い。悲壮感が漂う。


「なんとか、終わった。」

レオンは言葉少なに告げた。


「レオン、お前!なにがあった。大丈夫か?」


「あぁ」


続いて、肩で息をするリィナも現れる。


「ごめん。あと一歩のところで、逃げられちゃった。」


「そうか。でもリィナが無事でよかった」


アランは安堵の笑みを見せる。



「こっちも終わったところだ」

三人の視線が、解放された術師たちに注がれた。


ヴィルマは一人一人の頬をそっと叩いて意識を確認し、最後に深く頭を下げる。


「本当に……ありがとう。これ以上、犠牲を増やさずに済んだのは、君たちのおかげよ」


「まだ……他にも行方不明の人はいるんだろう?」

アランが問いかける。


「ええ、でも一部でもこうして救えた……それだけでも大きい」


静かに、遺跡に灯るランプの光が揺れた。


「あとは早くティナを探さないと」

アランが言い、仲間の視線が集まる。


「ティナ……この中にはいないみたいだな」

レオンが周囲を見渡す。


「行方不明のままなのか……?」


アランの表情に焦りが滲む。


「……あ」


不意に、リィナがぽんと手を打った。


「……あっ!!」


「……何だ、リィナ?」


レオンが怪訝そうに眉をひそめる。


「そうだ、そうだ、思い出した!! ティナちゃん、宿にいるわ!!」


「……は?」


アランが瞬きをする。


「いや、あのね、あなたたちを騙して連れてくる時に気絶させて、それから宿の、倉庫に一旦運んで寝かせてあるの、、」


リィナは額を押さえた。


「色々ありすぎて……私もいっぱいいっぱいで……忘れてたの!! ごめんってば!!」


「……」


「……」


「……お前な……」


レオンが小さくため息をついた。


「いや、ごめん、本当に……でも無事だから!!ほら、結果オーライってやつよ!!」


「……無事なら、いい。すぐに確認しに行こう」


アランは呆れたように笑い、剣を背に収める。



「そうね。……とにかく、みんな、本当にお疲れ様」


ヴィルマが一歩下がり、安堵の表情を見せた。




夜の遺跡に、ようやく静寂が戻っていた。


そして、長い戦いの先に待っていた少女の無事を願って、四人は再び歩き出した。


夜明け亭の木造の扉を押し開けたとき、油灯の暖かい光が迎えてくれた。


深夜を越えたはずなのに、宿の女将は起きていて、彼らを一目見て目を丸くする。


「まあ、あなたたち、いったい何が」


「すみません、後でちゃんと説明します。」


アランがひとことだけ告げ、ふらつく足でロビーを抜けていく。


二階の一番奥の部屋。


ノックをするまでもなく、扉がすっと開いた。


「あっ」

ティナがそこにいた。


真新しい寝巻き姿で、目を瞬かせている。


「アランたち、そんなにボロボロで、どうしたの?」

その問いかけに、一瞬、三人とも声を失った。


リィナが気まずそうに目をそらす。


「ティナ、お前、本当に無事で。」


アランが安堵の息を吐いた。


「うん。なんか、倉庫で寝ちゃってたみたいで、記憶はないんだけど、さっき起きたの」


ティナは小さく首を傾げた。


「みんな探してくれてたの?」


「ああ。おかげでえらい目にあったぞ」


レオンがやれやれと肩を落とす。


「ギルドに報告は?」


「明日でいいだろ。もう疲れた」

アランはぽんとティナの頭を撫でてから、部屋の壁にもたれ込むように座り込んだ。


「早くリィナが言ってれば、あんな遺跡の奥にまで行かずに済んだんだけどな」


レオンが冷ややかに言うと、リィナは勢いよく両手を合わせた。


「ほんっとうにごめんってば!もう頭の中ぐちゃぐちゃで、倉庫に寝かせてたのすっかり!」


「まあ!無事だったならそれでいいさ」

アランが小さく笑う。


「とにかく、今夜はもう休もう。報告も片付けも、ぜんぶ明日だ」


「そうね」


リィナも疲れきった笑みを浮かべた。


ティナがそっと部屋の奥から毛布を持ってきて、アランの肩に掛ける。


「ありがとう。みんな……」


夜明け亭の廊下に、かすかな明け方の気配が漂いはじめていた。


この夜が終われば、また次の日が来る。


そう思うと、心の奥に、ひどく久しぶりに静かな安堵が落ちてきた。

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