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第62話 ケガの代償 

倒れ伏したアランの周りを、冷たい空気が取り巻いていた。

浅い呼吸のたびに胸がひくひくと震え、唇の端から血が滲む。

その顔色は、夜の闇よりもなお青白く見えた。


「アラン……っ! しっかりしろ!」

レオンが震える手でアランの頬を叩いた。

隣ではリィナが必死に止血の布を押し当て、唇を噛みしめる。


「お願い……お願い、死なないで……!」


そのときだった。

暗い通路の奥から、駆け足の音が響いた。

髪を乱し、分厚い外套を翻しながら駆けてくる影――。


「……なんだ君たちは、毎度毎度、限界まで無茶をして……!」

息を切らせ、ヴィルマが膝をつく。

迷うことなく腰の革袋から、封蝋で密封された小瓶を三つ取り出した。


「アラン、これを飲め。――禁制の回復薬だ。だが副作用は重い。分かっているな?」


レオンとリィナが顔を見合わせる。

「……お願いします。今は、それしか……!」

レオンの声が震えていた。


「いいだろう。責任は私が取る。」

ヴィルマは短く答えると、小瓶の封を切り、アランの唇に苦い液を注いだ。

冷たい金属の匂いと、薬草の刺すような苦味が喉を滑る。


次の瞬間、アランの身体が小さく痙攣した。

だが、蒼白だった頬に次第に血の気が戻っていく。


「……っ! 息が……楽に……」


アランは震える声を上げ、ゆっくりと上半身を起こした。

痛みが、まるで嘘のように消えていく。

全身に力が蘇る感覚さえあった。


「アラン、無理するな!」

レオンが慌てて手を伸ばす。

だが、アランはふらりと立ち上がった。


「大丈夫だ……ティナを、早く助けないと……!」


「待って……!」

リィナの声も届かない。

アランの目には、ただ一つの想いしか映っていなかった。

ティナを――救わねば。


その背を見送りながら、ヴィルマはもう二つの小瓶を差し出した。


「お前たちも、まともに動ける状態ではないだろう。」

レオンとリィナは驚いた顔を向ける。


「こっちは魔力回復薬、もう一つは体力回復用だ。副作用はない。ただし、一度に全部飲むな。」


「……ありがとうございます。」

レオンは深く頷き、魔力回復薬を受け取る。

リィナも震える指で瓶を掴む。


「ありがとう……!アランを追いかけないと!」


「そうだな。だが――」

ヴィルマは一瞬、アランの背中を見つめた。

その横顔に、わずかな哀しみが滲む。


「……あの薬の本当の代償は、これからだ。痛みも麻痺も、いずれすべて戻る。数日は地獄のような苦しみが続くだろう。」


小さく呟いた声は、勇ましく歩み去るアランには届かなかった。


「ヴィルマ先生……本当に、あれで……」

レオンが問いかける。


「今は、他に手段がなかった。それだけだ。」

ヴィルマは静かに言い切った。


三人は、赤く沈む遺跡の奥へと歩を進める。

誰もまだ、この先に待つ後遺症の苦しみも、真の戦いの幕開けも知らないままに――。

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