表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/66

第0話 『その血、災いの種なり』―黒き誓約、風の始まり―

遡ること十年前。

リヴァレス王国には、すでに狂乱の兆しがあった。


冷たい石造りの地下室。

蝋燭の灯りが僅かに揺れ、重苦しい空気が部屋を包んでいる。


広間の奥、黒金の椅子に腰掛けた一人の男が、古びた書簡を手にしながら呟いた。


「……遂に現れたか。“王の器”が」


声の主は、王の実弟にして、“黒き誓約の参謀”と呼ばれる男――カリオン王弟。

その傍らに控える宰相・ゼグラートは、わずかに表情を歪めた。


「例の少年……“彼”に、反応が出ました。

リヴァレスの因子が揺らぎはじめた。──まさしく、オーガストレイとルミヴォークの血が覚醒を始めた証です」


「……皮肉なものだな。国家創立時に“反乱の因子”として封じられたルミヴォークの血が、今また蘇ろうとは」


ゼグラートは黙って頷く。

──この男こそ、かつて国家に抹殺された“ルミヴォーク家”の末裔にして、滅びの血を継ぐ者である。


「“王の血”が腐れば、国家も腐る。

我らはただ、正しき血脈を取り戻すだけのこと」


「陛下の容態も長くは保たない。……時は満ちつつある」


カリオンは静かに立ち上がり、宰相に命じた。


「魔導組織“コルヴォファクト”をこちらへ引き込め。

銀蛇騎士団には、例の作戦の準備を。

──そして、“裏ギルド”に命じろ。“例の少年”を監視せよ」


「……了解しました。芽が出れば?」


「摘み取れ」


──蝋燭の炎が、一瞬だけ激しく揺れた。


ゼグラートは一礼し、闇の中へと消えていく。


その背後で、王弟は独りごちるように呟いた。


「忌まわしき、光の因子よ。

この国を腐らせたのは、お前たち“選ばれし血統”そのものだ」


「ゆえに、我らこそが新たな時代を築こう。

魔導と統制による、完全なる秩序の王国を――」


──そして、その風は、静かに吹き始めた。


時を同じくして――

王都リュミエールの郊外、小高い丘の上。


そこは、王都を一望できる風の通り道。

草原をなでる風が、少年たちの髪を揺らしていた。


「アラン、今でも騎士になりたいの?」


風の中で問いかけたのは、アランの双子の弟――アレンだった。


二人の容姿はよく似ていたが、瞳の色だけが違っていた。

兄・アランは金の瞳。弟・アレンは銀の瞳。


草の上に寝転んで空を見上げていたアランが、顔を横に向けて笑う。


「ああ、なるよ。父さんみたいな立派な騎士になって、国を守るんだ!」


「ふーん……やっぱりね」


「オレがこの国を守るから、アレンは自由に旅していいぞ!冒険者になれよ!」


そう言って、アランは笑顔のまま拳を差し出す。

アレンも微笑み返して、それに拳を重ねた。


「じゃあ、約束だよ。お互い、夢を叶えるって」


その瞬間、風が強く吹いた。


小さな銀の羽根が空に舞い、ふたりの頭上をくるくると回った。


──けれどその約束は、

やがて二人を、決して交わることのない運命へと導くことになる。


それはまだ、彼らが知る由もない未来の話だった。


そして10年後――

再び、王城地下。

「…消息不明だった。オーガストレイの子息の足取りが掴めました。」

宰相ゼグラートの執務室では、黒衣の影がひとり、静かに膝をついていた。


「……やはり、生きていたか。ついに血が目を覚ましたな」


「因子が本能を呼び起こす。面倒な話だ……」


ゼグラートの声音には、警戒と苛立ちが混ざっていた。


「ギルドには、すでに内通者を配備済みです。行動の掌握は、即時可能」


「……ならば結構。芽が出る前に摘めるよう、準備しておけ」


「さて、準備は整いつつある。よろしいでしょうか、カリオン様?」


宰相が尋ねると、王弟カリオンはゆっくりとうなずいた。


「構わん。始めろ。──“国家の歯車”を、壊してしまえ」


黒衣の影が立ち上がり、気配もなく部屋を後にする。


静寂の中、王弟は立ち上がり、石壁に掲げられた一枚の古文書に視線を落とした。

そこにはかつて存在した、禁忌の家系“ルミヴォーク家”の紋章が刻まれていた。



「忌まわしき“選択の因子”……あれが存在する限り、この国に未来はない」



「我らが築くのは、選択も自由もない、完全なる統制の王国だ」


「……そしてアランという名の少年が、その最後の鍵となる」


ゼグラートが応じる。



「王弟殿、その覚醒が“神性”に傾くのか、堕ちるのか――

いずれにせよ、この国の命運は、その手の中にあるでしょうな」




そのとき、石壁をなでるように風の音が鳴った。

外では、夜の風が王都を吹き抜けていく。



──だがまだ誰も知らない。



その風こそが、いずれ“嵐”となって、王国を根本から揺るがすことを。



そしてその中心には、一人の少年の名が記されていた。


──アラン・オーガストレイ。




読んでいただきありがとうございます。

これから始まるアランの物語


0話を追加させていただきます!


ブックマーク、感想を増やしたいと考えて書いて見ました。

長くなると思いますが、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ