勇者が帰還するとき
聖暦1200年。
異世界からやってきた、勇者と呼ばれる男が魔王を倒した。勇者はもといた世界に戻るため、わが愛する祖国に戻るため魔王討伐を進めた。
彼の旅には一人の仲間がついていた。とある亡国の王女である。王女は魔導士としてもともと世界に名をはせており、魔王討伐を志していたものだった。その旅の途中、勇者とであったのである。
「あちゃ~、お客さんこんな壊れかたしちゃ直せないよー。」
「どうにかならないっすかね?」
「いくら勇者様のたのみだからといってもねぇ。できないものは、できんよ。」
「どうすっかな~」
「あっ!魔導士だったら直せるかもしれないぞ?」
「魔導士なんてなかなか会えないって!」
「はは。勇者様がそれをいっちゃぁね。まぁ、ギルドにでも行ってみるといいさ。」
勇者は武器屋のおっさんの言う通りギルドにいって、まず受付嬢にでも聞いてみるかと
「おねぇさん、魔導士いない?」
「あぁ、いますよ。ちょうどよかったですね。先ほど依頼から帰っていらしたんですよ。ほら、あそこのテーブルです。」
受付嬢の指し示す方を見ると、美しさとはを体現するかのような若い女が座って、魔導士ということを表す大きな杖を磨いていた。
「ありがと。また、依頼の時はよろしくー。」
「はい。お待ちしております。勇者様へのご依頼は溜まっていく一方なんですから。」
笑って胡麻化すと、魔導士の女のテーブルまでいき、
「ねぇ、君魔導士だよね?」
「は、はい。そうですが…。」
「この剣直せる?」
そう言って、魔導力が薄れ光を失った魔剣を見せた、
「できますけど。」
「え、まじ?やってくれませんか?いくらでも出します!」
「い、いやそんな難しいことじゃありませんから。」
そういうと、なにやら何重もの魔法陣が剣の周りを回転しだした。
「これで、どうでしょうか。」
「お、おう。早いんだな。」
剣を握り魔力を通してみると、元のように輝きだした。
「ありがとう!これ、代金。」
「いえいえ。」
これが勇者と王女の出会いであった。ここから彼らは、ここでの縁でか、なんどか一緒に依頼を受けたり、冒険をしたりするうちにパーティーを組むことにした。二人の目的である、魔王討伐のために。
魔王討伐前日。
「なぁ、そういえばお前なんで魔王討伐に行こうと思ったんだ?」
「言ったことありませんでしたか。私は王女で、魔王によって私の国は滅ぼされたんです。」
「そ、そうだったのか…。わりぃ、変なこと聞いたな。」
「いや、いいんです。」
勇者と王女。ここまで、多くの困難に共に立ち向かい、支えあってきた。しかし、お互いに知らないことだってある。勇者は魔王を倒してしまえば、その時元居た世界に帰還することになる。これがゆっくり喋ることのできる最後の時間だ。
「そういう勇者様はどうして魔王討伐に?」
「俺は、異世界から来たんだ。ほら、勇者の伝説は知ってるだろ?あれみたいな感じだ。」
「そうなんですか。」
「あぁ、だから俺は明日魔王討伐に成功すれば元の世界に帰ることになる。」
「え…。」
パーティーとして共に過ごした期間は、長くはない。1年ちょっとくらいだ。でも、ほかの誰にも代えられない信頼が互いにあった。きっと、伝えたい想いだってあるのだろう。伝えるべきなんだろう。しかし、伝えてしまえば、世界はどうなるのだ。魔王はどうなるのか。だから――
「明日は早い。もう寝るぞ。」
「そうですね…。」
魔王討伐当日。
魔王は死んだ。それはもうあっけなく。これからの伝説には残ることもないほどに。
「なぁ、王女。俺、楽しかったよ。いっしょにパーティー組めてよかった。」
「は、はい。私も…。」
涙が彼らの顔を汚しても、拭うこともできない。これが、お互いに最後に見る顔だというのに。
「帰りたくないなぁ。俺これからも、もっとお前と――」
「だめです。その先は言ってはだめです。あなたには帰る場所があるのですから。」
「お前はどうするんだ?これから」
「そうですね、私はどうしましょうか。まぁ、勇者様の伝説を広めましょう。」
「はは。やめてくれ。」
別れは刻一刻と迫ってきていた。
「勇者様。私はあなたのことを愛していましたよ。」
「あぁ、俺もだ。」
顔が、手が、体が触れ合うか触れ合わないか。そんな瞬間、大きな光が勇者を包み、彼の存在はこの世界から消えた。しかし、王女が触れたその体温は確実にまだ残っていた。




