第6"章 ワンモアタイム ワンモアチャンス③
目を覚ますと、夜だった。
意識が朦朧とする。俺は無事に世界を越えられたのだろうか。徐々に視界がハッキリしてきて、腕を見ると高校時代の制服が目に入った。ポケットの辺りに何かが入っている感じがして取り出してみると、高校の頃に使っていたスマートフォン。電源をつけると二十三時の表示されていた。
ちゃんと移動できたらしい。情報の転記による周囲との干渉が少なくなるよう夜中の時間帯を狙ったのだけど、そちらも上手くいったようだ。
理屈ではわかっていても、きちんと高校時代に飛んできたことに安心する。どこにもたどりつけないまま俺の情報が路頭に迷う危険もあったわけだけど、流石は筑後といったところだろう。
「あれ……?」
段々と意識が覚醒して、違和感に気づく。俺がいたのは自分の部屋ではなく病室だった。
それが意味していることに理解が追い付いて、これまで感じたことの無い痛みを伴うような悪寒が走る。
目の前で神崎が眠っていた。嘘であってほしいと願いながらスマートフォンの日時を確かめると、神崎が倒れた日付を無慈悲に示している。
ズレた。
二十年遡って一週間程度のズレなのだから精度としては十分なのかもしれないが、それは同時に致命的な誤差だった。
神崎の脳が完全に胞子に蝕まれるタイムリミットはわからないけど、どんなに長くてももう半日も残っていない。
失敗した。
どうする。どうすればいい。俺はこの世界でも神崎が意識を失っていくのを見守ることしかできないのか。
駄目だ。このA"の世界をもう一度繰り返したところで、そこからもう一度やり直すことはできない。俺の意識は次の転送に耐えられない。
なにか、方法は。
せめて深安山の試料があれば。だけど、今から深安山に試料を取りに行ったとして間に合うのか。
「いや、ある……」
神崎が“呪い”に罹ったのは、試料を採りにいった時乃と俺を助けるためだ。それはこの世界でも変わらないはずで。
まだ、希望は残ってる。こんなところで諦めるわけにはいかない。元の世界で俺を送り出してくれた時乃と筑後のためにも。なにより、目の前の神崎の為に。
「待ってろ、神崎」
病室を駆けだしてそのまま病院を後にする。ここから学校までは走って三十分くらい。それくらいどうってことないくらい、この頃の俺は時乃に鍛えられている。
走りながらスマートフォンを取り出す。もうすぐ日付が変わろうとしている。頼む、繋がってくれ。
「もしもし? どうしたの、宮入君」
願いが通じたのか、筑後はすぐに電話に出てくれた。
「筑後! こんな時間に悪い! 頼みがあるんだ!」
「えっと、どうしたの?」
「部室と薬品棚の鍵を持って、校門まで来てほしい」
「今から?」
戸惑った様子の筑後の声。筑後の気持ちはよくわかるけど、今の状況をどう説明すればいいかがわからない。走りながらでは頭も回らないけど、今は一秒でも惜しい。
「頼む。信じてくれ」
息を呑む音。それから数秒沈黙が続く。
ダメか。それなら最悪部室のドアを壊してでも――
「わかった。今から行くよ。三十分くらいかかるけど大丈夫?」
「ああっ……ああ、バッチリだ! 頼む、筑後!」
通話を切って、学校までの道のりを全力で駆け抜ける。
まだだ。まだ、諦めるには大きなものを背負ってここにやってきたんだ。




