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君がいる世界を僕は必ず奪取’する  作者: 粟生深泥
第5章 turning point
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第5'章 turning point②

 時乃と話した後、部室に向かうと筑後が部に備え付けの古いノートパソコンのキーを叩いているところだった。先月の坂巻山で撮影した写真などを元に地域伝承――時間を巻き戻す伝承の多さの理由――を考察してまとめている。


「今日も神崎さんはお休み?」

「ああ、テスト勉強だってさ」


 荷物を置いて何となく決まった定位置に腰を下ろす。部室にいる時は筑後の調査に関する話をするか、神崎ととりとめのない雑談をするか、永尾町の地域伝承なんかを調べることが多かった。だけど今は筑後は作業中で、神崎はおらず、呪いについても神崎が答えを持っていることが分かっている。

 何となく手持無沙汰で部室内を見回す。部室の片隅に「サワルナ」という張り紙とともに置かれていたフラスコは中身が空になっていた。あの中に“特効薬”が入っていたのだとしたら、やはり神崎は初めから呪いの正体を知っていて、その対策を作り上げていたことになる。


「そっか。坂巻山で水が溢れるのを察知した方法、聞きたかったんだけどなあ」


 あの時、神崎は「未来を言い当てられる」と言っていた。それはあくまで筑後を翻意させるための方便で、実際のところは観望天気のような予測だったと思ったけど、今となってはそのどちらもあり得るような気がした。


「そういえば、今更聞くんだけどさ。筑後がタイムトラベルに関するオーパーツとかを調べ始めたきっかけとかってあるのか?」


 今は不用意に神崎の話をしたくなくて、何となく思いついた話題に変える。


「きっかけ?」

「ああ、過去に戻りたいとか、選択をやり直したいとか。そういうのがあったのか?」

「うーん。僕自身はあまりそういう思いは無くて、どちらかといえばロマンに近いのかなあ」

「……ロマン?」


 オーパーツなんてロマンの塊以外の何物でもないのだろうけど、ちょっと予想外の答えに間の抜けた声が出てしまった。少し照れくさそうにしながらも筑後は頷く。


「先祖の霊を見るとか、気がついたら未来に辿り着くとか。そういった逸話や伝説は日本だけじゃなくて世界各地に点在してて。昔から今まで人は変わらず時を行き来することに憧れを抱いてたんだなあって思うとなんだかワクワクして」


 筑後は立ち上がると、部屋の書棚に収められている本を撫でる。それはいままで筑後が色々なものを調べ、興味を抱き、憧れてきた軌跡。


「昔から人間が抱いてきた憧れだって思うと、単なる伝説だって片付けることもできなくて。そうやって調べると、本当にタイムトラベルがあったんじゃないかって思えるようなオーパーツが世界各地に存在してるってわかって。そんな風にしてどんどんのめりこんでいった感じかなあ」


 筑後はそこまで一気に語ると、はっと気づいたようにはにかみながら頬をかく。


「そうだ。宮入君は一度だけ過去に戻ってやり直せるとしたら、どの時点に戻りたいってある?」


 首をかしげる筑後の問いに、返事に迷う。坂巻山で同じことを聞かれたときも、答えは出てこなかった。


「俺は……」


 例えば、祖父が呪いにかかったタイミングに戻ることができれば、祖父も父さんも呪いで失うことは無いのかもしれない。

 だけど、そうなったら時乃とは今みたいな間柄じゃなく、神崎や筑後と知り合うこともなかったと思う。どちらの方がいいとかって話じゃなくて、気がつけばこの空間も俺にとってかけがえのないものになろうとしていた。


――ロードの練習してるときに香子ちゃんを見かけた! ばあちゃんちの傍の河川敷!


 筑後の質問への答えに迷っていると、時乃からのショートメッセージが入る。スマホを握る手に力が籠る。

 わかってたけど、テスト勉強なんて嘘っぱちだっただった。時乃のメッセージに返信して、すぐに荷物を纏める。


「悪い、筑後。俺、行かないと」


 筑後は顔を上げて少し不思議そうな顔を浮かべるけど、慌ただしく動く俺の様子を見たからか何も聞かずにただ柔らかい笑顔を浮かべた。


「うん。いってらっしゃい」

「ああ」


 絶対に、春の陽だまりのようなこの場所に神崎を連れ帰ってくるから。声には出さずに決意を固めて部室を後にした。


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