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君がいる世界を僕は必ず奪取’する  作者: 粟生深泥
第4章 選択の刻
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第4'章 選択の刻①

 六月に入ると早々に梅雨が訪れた。天気予報では夕方から止むと言っていたけど、授業が終わっても教室の外ではざあざあと強めの雨が降っている。

 こんな強い雨の日はどうしても過去を連想させて憂鬱になってしまう。ここ数日ずっと雨の日が続いていたせいですっかり気が滅入っていた。


「やっほ、翔太。あれ、香子ちゃんは?」


 教室に入ってきたのは時乃だった。時乃の方は雨でも元気そうで羨ましい。

時乃は空っぽの俺の隣の席を見ると、春先より少し伸びた髪を揺らすように小さく首をかしげた。


「なんかやることができたとか言って、授業が終わった途端にバタバタ出てった」


 声をかける間もなく文字通り駆け出していく感じだった。今日だけじゃなくてここ数日神崎はそんな様子が続いていた。


「ふうん。じゃあ、今日は部活ないんだ?」

「そ。本当は普通に部活の予定だったけど、筑後が風邪ひいちまったらしくて」


 SNSのグループチャットに朝から筑後のメッセージが入っていた。学校には登校したものの、放課後病院に行くとのことで、俺と神崎だけで集まってもしょうがないので部活は休みになった。

 筑後は確かに線は細いけど、先月の坂巻山で見せたように体力もあるし、俺がオー研に入ってから体調を崩すことはなかった。その筑後が病院に行くほど体調が悪いというのは心配だったし、学校まで休むようならお見舞いにでも行った方がいいのかもしれない。


「時乃は? こんな雨でも部活あるのか?」

「当然。って言っても、グラウンドは使えないからウェイトして、雨が小降りになったらジョグして終わりって感じだけどね」


 雨が止んだらじゃなくて、小降りになったらなのか。やっぱり陸上部ってのは恐ろしい。雨の日くらい屋内で大人しくしてりゃいいのに。


「部活休みならちょうどよかったのかな。ばあちゃんがこれ買ってきてほしいって」


 時乃が差し出したスマホに映っているのはいつもの買い物リストのメール画面ではなくて、何か型のようなものが写った通販サイトだった。


「マフィン型……? なんでそんなもの。ばあちゃんが洋菓子作ってるとこなんて見たことないけど」

「さあ、ばあちゃんに直接聞いてよ。じゃ、私部活だから」


 時乃はくるっと背を向けると、パタパタと廊下に駆け出していった。

 マフィン型ねえ。スマホで調べてみるけど、ばあちゃん家の最寄りにあるいつものスーパーには売ってなさそうだ。少し遠回りする必要がある。


「マジかよ……」


 外を見ると変わらず強い雨が降っている。この中を遠回りして買い物をするのは気が進まないけど、おつかいを無視するとそれはそれで今後の夕飯に響いてくるので選択肢はない。せめて、店から出る頃には天気予報通り雨が止んでいればいいけど。

 ため息をついていても雨が降りやむ様子もない。最後に一つため息を吐き出して、諦めて雨合羽を手に教室を後にすることにした。


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