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君がいる世界を僕は必ず奪取’する  作者: 粟生深泥
第3章 溢れだしてきたものは
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第3'章 溢れだしてきたものは⑤

 そこから一時間くらい川を下っていって、少し開けたところで昼食となった。深い森に囲まれて水のせせらぎを聞きながらの弁当――ばあちゃんが朝から俺と神崎の分を用意してくれた――を食べるのは童心に帰ったみたいで不思議な気持ちだった。


「わわっ! タコさんウィンナーだ! 懐かしー!」


 神崎が目をキラキラさせて弁当に箸をのばす。ばあちゃんが作ってくれたのは今は逆に珍しいくらいの定番の弁当でそれがまた懐かしさを引き立ててくれる。海苔で包まれたおにぎりにかぶりつくと歩き続けた体に塩味が染みわたった。

 俺と神崎が弁当に舌鼓を打つ一方で、筑後だけは浮かない顔だった。


「予定では、ここで引き返して入口まで戻るんだったか?」

「うん。そうだね……」


 頷く筑後の声に元気はない。その理由は想像がついていた。

 ここまで降りてくるまでの一時間、筑後は精力的に辺りを調べながら来たが、目ぼしい発見は一つもなかった。筑後自身が「高校生がすぐに何かを見つけられるなら苦労はしないよね」というスタンスだったし、何か出てくれば儲けものくらいのはずだけど、それにしては筑後は気落ちしている。


「あのさ、もう少しだけ降りてみたらダメかな?」

「それ、何か見つかるまできりがないんじゃないか?」


 あと30分降りて何も見つからなかったとき、そこですんなり引き返せるだろうか。もう少し行けば見つかるんじゃないかとどんどん深みにはまってしまう気がする。こういう時は潔く諦めた方がいいと思うのだけど。


「何かの欠片でも見つかればラッキーだって言ってただろ。急にどうしたんだよ」

「それは……」


 筑後はしょんぼりと俯いてしまって、チクリと罪悪感にかられる。普段俺の周りにいるのは時乃とか神崎とか我が強く突っ走ってくタイプで、筑後みたいな控えめで一歩引きがちタイプはいなかった。ここは神崎に対応を任せたいけど、神崎は弁当に夢中になっている。俺もそんなに人に気をつかうタイプではないと思うけど、ここまでマイペースなのは羨ましい。


「ここは言い伝えの確度も高いし、絶対に何かある気がするんだ。うん、何か……時間を行き来した痕跡のような何かが、きっと」

「言い伝えもさ。先祖と出会ったとか、有名人の霊を見るって類の話は各地で似たような話が伝わってるだろ? 坂巻山っていう名前に引っ張られて、本質を見失ってないか?」

「それは、そうだけど……」


 筑後が再び押し黙る。そうういう民話とか伝承の話は筑後の方が詳しいだろうし、別にこの場で筑後を論破したいわけじゃない。ただここで引き返すべきだと思っているだけなのに、どうすればうまく筑後を説得できるのだろう。


「でも僕は、宮入君に少しでも信じてもらいたくて。だから――」

「あっ!」


 さっきまで弁当に夢中だった神崎がいつの間にかタブレットを片手に声をあげた。それから近くを流れる小川の水面を覗き込んだり足元の土を触り出したりする。いつもの宇宙人的行動っぽいけど、このタイミングで発動するのか。

 呆気にとられたような筑後とともに神崎の行動を見守る。タブレットと辺りの地形を見比べて、雲一つない空を木々の隙間から見上げたかと思うと小川の方を見たまま少し長めの息をついた。


「ねえ、筑後君。今の私、ちょっと未来のことを言い当てられるかもしれない」

「え、と。神崎さん?」


 小川の方から振り返った神崎はどこか神秘さを湛えたような無色の笑みを浮かべていた。


「お弁当食べ終わったら戻ろう? この辺り、もうすぐ水が出るよ」


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