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君がいる世界を僕は必ず奪取’する  作者: 粟生深泥
第2章 その一滴は波紋となって
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第2'章 その一滴は波紋となって⑤

「お、部活か。そうだな、神崎が1年と一緒に見学して回るのはやりにくいか」

「はい。だからまずは石川先生におすすめの部活がないか教えてほしいなと」


 放課後、ばあちゃんからおつかいの指示があればそれを言い訳に逃げ出そうと思ってたけど、こんな時に限って時乃がおつかいメールを持ってくることはなかった。一応、時乃のクラスのホームルームが長引いているんじゃないかと粘ってみたけど、痺れを切らした神崎によって職員室に連行されてしまった。


「で、宮入も部活を始める気になったと」

「校内に不慣れな転校生の付き添いです」


 強調してみたけど、石川先生は俺の返事には興味なさそうにデスクから冊子を取り出した。どうやらそれが永尾高校の部活のリストになっているようだ。石川先生はしばらくパラパラと冊子を捲ったところで、何かを思い出したように顔をあげる。


「おう、そうだ。お前らにおすすめの部活がある」


 石川先生は冊子の後ろの方を開くと俺と神崎に向かって掲げる。そのページに書かれていた文字を見て神崎は目をキラキラさせていた。もし鏡があれば、俺は神崎とは真逆の表情を浮かべてると思う。


「早速見に行ってみます!」


 職員室内に響き渡りそうな声とともに神崎は石川先生に頭を下げる。生徒の悩みを解決することが出来たからか石川先生もどこかホクホク顔だった。だれかこいつら止めてくれよ、なんて思うけど当然そんな人がいるわけもなく。


「じゃ、宮入君。早速行ってみよー!」

「部員は少し気の小さい奴だけど、よろしく頼むなー」


 少し間延びした石川先生の声を背に受けつつ、ウキウキの神崎に引きずられるようにして職員室を後にした。

 その後は転校から半月程度でまだ校内のつくりに不慣れな神崎に代わって冊子に書かれていた部室の場所を目指す。部室は最上階である4階の奥という校舎内の端の端に位置しているようで、入学から1年以上たった俺も初めて訪れるような場所だった。


「着いたぞ」


 第二化学準備室、と書かれたプレートに手書きで「オーパーツ研究会」と書かれた紙が張り付けられていた。部屋の明かりもついているようで、まさかと思っていたけどこの謎の名前の部活動は本当に存在するらしい。


「たのもー!」


 神崎はドアに手をかけると一切の躊躇なく開け放った。ほっとくわけにもいかないから部屋の中に入った神崎に続く。部屋は中央に置かれた長テーブルの他は殆ど棚がスペースを占めていた。片側のガラス棚には何やら薬品が色々収められていて、もう反対側はラック上の棚に何やら分厚い本やそれが何かもわからないオブジェクトが飾られている。部室というよりは物置のような部屋だけど、確かに中に人がいた。

 長テーブルのところで分厚い本を捲っていた男性がゆっくりと顔をあげる。その視界に神崎と俺が収まったのか、徐々に表情が驚きに包まれていく。線は薄いけど端正な顔立ちでこんな場所には不釣り合いなようにも見えた。


「だ、誰でしゅか!?」


 前言撤回。驚きのあまりなのか、第一声を思いっきり嚙んだ童顔イケメン男子が目を丸くして俺たちを見ている。そんな相手にためらうことなく神崎は一歩前に進み出た。


「この4月に転校してきた神崎です。部活見学に来ました!」


 イケメン男子の顔は最初神崎が何を言っているか理解ができないかのようにきょとんとしていたけど、一拍おいてバタバタと慌てて立ち上がり俺たちの前にやってくる。


「よ、ようこそ。僕は2年4組の筑後風馬。オーパーツ研究会、通称オー研の部長です」

「筑後君だね、よろしく。あ、同学年だし、そんな緊張しないでいいよ?」

「あ、えっと、これは」


 神崎が小さく首をかしげると、筑後は顔を赤くしてワタワタと周囲を見渡し、最終的にはその場で俯いてしまう。


「ぼ、僕。すごい人見知りで。学校で人と話してるより、ネットで知らない人とやり取りすることが多いくらいで。だから、緊張しっぱなしかもしれないけど気にしないでくれたら嬉しいです」

「わかったけど、敬語はやめよう?」

「わ、わかりました!」


 相変わらずの筑後の口調に神崎が一瞬ポカンとして、それからくしゃりと表情を崩す。筑後の方は使わなくていいと言われた敬語を早速使っていることに気づかないくらい緊張しているようだった。


「それで、ここってどんなことする部活なの?」


 神崎は何か言いたさそうにムズムズしてるけど、話を先に進めることにしたようだ。


「あ、えっと。文字通り世界中のオーパーツについて情報を集めたり、あとは国内のオーパーツについて調査したり、探してみたりとかそんなところです……だよ」

「調査って、日本にもオーパーツがあるの!?」

「数は少ないけど。聖徳太子の地球儀とか、宇宙船だって噂がある虚舟みたいなのがありま……じゃない、あるよ」


 神崎の視線の圧によるものか筑後は敬語を言い直す。それから筑後は棚から厚手の本を取ってくると俺たちの前で広げた。そこには確かに地球っぽい形の凹凸のある金色の玉の写真や、蓋つきの丼のようなものから女性が出てくるような絵が載っている。


「宇宙船だってさ。それが見つかったら神崎が生まれた星に帰れるじゃん」

「いや、実はこれ、宇宙船じゃなくてタイムマシンかもよ。隣に描かれてるの明らかに人間の女性だし、未来人でしたってオチかも」


 からかったつもりが斜め上の返事がかえってきてしまう。やめよう、俺みたいなのが口を挟める世界じゃない。一方、筑後は俺たちのやり取りにパッと目を見開くと、興奮した様子で別の本を持ってくる。


「オー研の人は代々それぞれがテーマを持ってオーパーツの調査をしてるんだけど、僕の場合はタイムトラベルの証拠っていう観点なんです。例えば世界最古のコンピューターって言われるアンティキティラ島の機械とか、アステカ文明の水晶ドクロとか、その時代の技術で到底作ることが出来ないようなものは未来人が持ち込んだものじゃないか、みたいな」


 自分の分野に関する話だからか、筑後はイキイキと本を捲りながら語っていく。だけどその話題はマズい。案の定、神崎の目がキラキラどころかギラギラしている。神崎が俺と出会った時の第一声は「タイムトラベルを信じるか?」だった。あの質問に何の意味があったのかはわからないままだけど、そんな質問をしてくるくらいだから当然興味はあるようで。


「うんうん。憧れるよね、タイムトラベル!」


 それから意味ありげな視線を俺に投げてきた。


「まあ、ここにいる宮入君はタイムトラベル否定派なんだけどねー」

「お前、別に今そんなこと言わなくたって」


 当然のように筑後はジトっとした視線で俺を見ている。タイムマシンの是非はさておき、よく知らないやつから自分の信じているものとか好きなものを否定されたらいい気はしないだろう。俺だってそれくらいはわきまえてるつもりだったけど。


「み、宮入君がタイムマシンを信じられない理由はなんですか?」


 そう問いかけてくる筑後の顔には熱っぽさがあって、また頭を抱えたくなる。なんで半月の間に二回もタイムトラベルがあり得ない理由を説明しなきゃいけないんだ。


「そうだな。仮に筑後の言う通りオーパーツが未来人が来た証拠っていうならさ、未来人の落とし物の割にしょぼくないか?」


 筑後の手元の本を捲ると、錆びた歯車のようなものが写ったページが出てくる。


「アンティキティラ島の機械だって未来から来たって考えるとアナログすぎるし、水晶ドクロなんてなんでそんなもの持ち歩いてるんだよって話だし」

「高度な電子機器は経年劣化が早いから、結果的にそういうアナログな物だけが残ってる、っていうのはどうかな?」

「そうだとしても、当時の記録に一切そういうものに関する記述が出てこないのは不思議じゃないか? そもそも、タイムトラベルができるとして、何のためにやってくるんだよ」

「それは、うーん。例えば過去の失敗をやり直したいとか……」


 筑後の声には力がなく自信がなさそうで、まるで俺が筑後をイジメてるか叱っているみたいで嫌なんだけど。


「でもだぞ。過去の失敗をやり直したらそいつは将来タイムトラベルする動機がないわけだろ。そしたらタイムトラベルが行われないからそいつはやっぱり失敗をするわけで……っていう感じで堂々巡りが起きちまうだろ」


 有名な“親殺しのパラドックス”をマイルドにした感じだけど、明確な答えのない問題に筑後は黙り込む。罪悪感を覚えつつも、これで話題が終わってくれと心の中で願っていたら筑後は鞄からノートとシャーペンを取り出した。


「でも。タイムトラベルというのは双方向的な時間の行き来ではなく乙の字型だとしたら」


 筑後がノートに書いたのは前後に行き来する矢印と、乙の字状に一方通行で伸びる矢印だった。


 「初めは乙の上側で時間が流れていて、タイムトラベルでその原因が消えた時点で乙の下側で時間が流れ出すんです。それなら、流れている時間軸自体が違うから堂々巡りの問題は起きません。元の時間の流れをAとしたら、タイムトラベル後の時間の流れはA’……ってところですかね」


 筑後が乙の字に沿うようにシャーペンを動かす。

 殆ど同じ世界だが次元が違う世界の過去に移動する。荒唐無稽だと思ったけど、すぐには返事が思い浮かばない。

 確かに筑後の言う通りなら誰かがタイムトラベルした線とタイムトラベル後の線は別なわけで、パラドックスの問題は起きない。だけどそれは本当にタイムトラベルといえるのだろうか。どちらかというと並行世界みたいなオカルト領域に入るのではないだろうか。


「私、決めた!」


 考え込む俺の隣で神崎がドンっとテーブルに両手をついた。


「筑後君。私、この部に入りたい」

「え、いいのっ!?」

「うん。筑後君の話を聞くだけでも面白そうだし」


 うんうんと自分の言葉に頷いてから、ニヤッと笑って俺を見る。


「ね、宮入君も入るよね。やられっぱなしのままだと悔しいでしょ?」


 いや、別に悔しくはないけど。でも、筑後が示したノートをどう考えるといいのかは気になると言えば気になる。でもそれは単純な興味の世界であって、俺にはもっと考えるべきことがある。時乃から陸上部に誘われたときに断った理由もそれだし、ここで俺がオーパーツ研究会に入部したら時乃に対して不義理な気がした。


「でも、俺みたいな否定派がいたらやりにくくてしょうがないだろ?」


 突然の入部宣言をポカンと見ていた筑後に振ってみる。筑後が俺の入部に懸念を示せば神崎だって無理強いはしないだろう。

 だけど、筑後はフルフルと首を横に振った。


「宮入君みたいに正面から反対意見を言ってくれる人がいた方が調査に深みも出るはずだから。だから、宮入君も入部してくれたら……嬉しいな」


 筑後は何も意識してないんだろうけど、弱々しい上目遣いに断る行為への罪悪感がみるみる高まっていく。さっきまでおどおどとした態度をさせてしまっていたぶんなおさらだ。

 その隣で神崎は俺を逃がさないつもり満々でいるし、神崎絡みの時はいつもそうだけどまたしても逃げ道はなくなっていた。選択を間違えた。もし筑後たちが言う通り本当にタイムトラベルができるのなら、まずは昼休みに戻ってやり直したい。


「そもそも、俺なんかが入部したらそれだけで迷惑が……」


 人の噂がどのように伝わっていくかは身をもって味わっている。俺が入部すればオーパーツ研究会はあることないこと噂が立つだろうし、筑後に迷惑をかけてしまう。

 だけど、筑後は不思議そうに首をかしげてきょとんとしていた。もしかして、呪いのことを知らないのか。転校してきた神崎ならともかく、同学年で一年以上いるのに。

 隣で神崎が笑っている。でもそれは俺をからかうようなものではなく、背中を押してくれるような穏やかな笑顔。ああ、もう。だからついてきたくなかったんだよ。


「わかったよ。仮っ。あくまで仮入部だからな」

「だって! やったね、筑後君!」

「はい!」


 昔からの知り合いみたいにハイタッチをする二人に、今日何度目かもわからないけど頭を抱える羽目になった。神崎が転校してきた日、神崎と一緒にいたら何かが変わるかもしれないと思ったけど、あながち単なる予感じゃなくなるのかもしれない。

 小さい子供みたいに喜ぶ二人の声を聞いて、どことなく居心地のよさを感じる自分の中で半分くらい確かに存在していた。理解者が一人でもいればそれでいいと思っていたのに、神崎に振り回されているうちにすっかり弱くなってしまったのかもしれない。

 でも、そんなに悪い気はしなかった。


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