愛だったのか分からない:近所
愛だったのか分からない。
お兄さんに抱いた感情の正体は、一体なんだったのだろう。
私の幼少期は悲惨だった。
父にも母にも虐げられる事が日常だった。
がりがりにやせていた。
心も体もやせてなにもなかった。
私は空っぽだった。
人とのつながりもなかったから。
何もない日々を生活していた。
毎日同じ事。
変化がないから。
時間が曖昧。
私はあのままだったら、ずっと幼いままだっただろう。
幼いまま、どこかで死んでいたかもしれない。
だからきっと、優しくしてくれる人が貴重だった。
その人が目に留まって、そこから私の世界は一気に広がっていった。
近所のお兄さんがいた。
私に声をかけて、お腹がすいていると、ご飯をくれた。
家から追い出されて、寒さでこごえていると、暖かい場所をくれた。
必要だ。癒されるといってくれた。
家族がいない。孤独の身だから、と寂しそうに言っていた。
私はその人の事が好きだった。
でもそれは愛だったのか分からない。
気に入られたいと思っていた。
嫌われたくないと思っていた。
自分以外を見て欲しくないと思っていた。
お兄さんに彼女ができたら、嫉妬していた。
本当に好きなら、相手の幸せを祝福できるはず。
でも私はそうじゃなかったから。
私の感情は、愛に似ている。
愛の様に思える。
けれどーー。
私は依存していたのかもしれない。
就職を機にその土地を離れたら、その人の事は思い出さなくなった。
本当に好きだったら、そんな事はないと思ったから。
だから、愛じゃないのかもしれないと思った。
お兄さんはヒーローで、私はそんなヒーローから見捨てられたくない哀れな子供。
それが正しい関係で、それは変わらないものなのかも。
あれは愛だったのだろうか。
それとも愛じゃなかったのだろうか。