北ヶ浜灯台
よく素敵な夢を見るので、文章で表現できるよう練習しています。成長のためにもご指摘いただければ幸いです。
プロローグ
窓から差し込む光で目が覚めた。枕に顔を埋めながら、手探りで掴んだスマートフォンは5時半ごろを指している。目覚めには早すぎるけれど、だからと言ってもう一度布団に潜り込んで眠れる気がしなくて、僕は着替えて家を出た。
四月十三日。木曜日。早朝の海岸のコンクリート道に波音と僕の足音だけが響く。風音も、鳥の鳴き声も聞こえないような静かな曙だった。見上げた空はうっすらと星明かりが見えるくらいには天気がいい。夜空と夜明けが混ざったような深い藍色は、宇宙の始まりをイメージさせた。なんだか夢の続きを見ているようで心地がいい。
春先とはいえ、早朝の———さらにいえば海辺の道は肌寒い。適当に羽織ったダッフルコートでは足りなかったなと少し後悔する。ため息のように吐いた息は白く濁り、宙で薄れて消えていく。
それを目で追って、不意に、遠くにポツンとある灯台が目が入った。
北ヶ浜灯台。
海に飛び出るようにできた防波堤を渡った先にある小さな灯台で、いつ作られたものかわからない。随分と年季が入っているようで、防波堤にある落下防止の手すりもすっかり錆びてしまっている。その風貌はまるで御伽話に出てくる不気味な魔女の館だ。
だからだろう、北ヶ浜灯台にはこんな噂話がある。
——————北ヶ浜の灯台には魔女が住んでいて、郵便受けに願いを書いた手紙を入れると気まぐれに願いを叶えてくれる。
学校の怪談に似て子供じみた噂だ。一聞すればどこにでもあるようなものであるけれど、辿ればその歴史は思いの外古い。
僕は小学生の頃に友人に教えてもらって初めて耳にしたけれど、よくよく聞けば、17年前にこの町に母が越してきた頃にはすでにあったのだそうだ。この前近所の小学生の口から噂話を偶然耳にしたので、今もなお噂としては健在らしい。
ずいぶん前から存在しているようではあるけれど、その一方で信じている人はきっと少ない。
北ヶ浜の灯台は通学路を少し外れたところにあるから気が向けば様子を見にいくけれど、願いを投函している人を見かけたことがなければ、灯台の周辺で人を見かけたことがない。
繰り返しにはなるけれど、こんな子供じみた噂を信じる人は少ない。けれど、逆にいえば、この噂を信じている人は少なからず存在している。なぜそう言い切れるのかといえば、そのうちの一人が僕だからだ。
しばらく歩いて防波堤の入り口にまで辿り着くと、灯台の全容がよく見えた。近くでも見ても、その風貌は絵本の中の魔女の屋敷にそっくりだ。窓一つない白壁は塩害で燻み、名前も知らない植物が扉を覆っている。
植物は手を伸ばすように扉の上へ上へと根を張り、嵌め込まれたプレートを覆うようにその指先を広げている。
『——ヶ丘——台——』
名前が書かれた真鍮製のプレートはすっかり風化して文字が擦れて潰れてしまっている。これでは誰も名前なんて読めないだろう。
そんなプレートを横目に扉を三回ノックする。当然返事はない。ドアノブを捻っても、もちろん扉は開かない。普段通りだ。だから僕は、引き出しに眠っていた呪文を唱える。
「『There's no place like home』」
不意に後ろで音がした。スタッカートの効いた、ローファーが地面を叩く音。
ゆっくり振り返ると、そこには少女が立っている。
『北ヶ浜の魔女』
黒く長い髪に白いリボン、紺色の見慣れた制服。まるで無から発生したように現れたその少女は、無表情とも言える顔つきでこちらを見つめている。
「おはよう」
彼女は応えない。これも普段通りだった。
僕は彼女と会話したことがなければ、その声を聞いたこともない。今の僕にできるのは彼女を呼び出すくらいで、彼女の存在やこの灯台についての謎はまだまだ多い。先ほど唱えた呪文も例外ではない。
だからこの灯台の謎を追うことはある種、僕の生きがいになっていた。勉強や部活に振り回されながら過ごす高校生活も良いけれど、それを高校生活のすべてにする気はない。
僕は彼女とこの灯台について、ある仮説を立てている。その仮説を検証するために、僕は一人の少女を犠牲にするつもりだ。そして、その暁に叶えたい願いが一つある。
大きく息を吸って、吐いて。僕はポケットからスマートフォンをとり出してメモ機能を起動する。これまで考えてきた仮説や検証内容がそこに並び、その出番を静かに待っている。その中の一節を一瞥してから彼女に視線を戻す。
この物語は僕と魔女の出会いによって始まり、きっと、魔女との別れで終わるのだろう。それが悲劇であれ、喜劇であれ、どちらでもいいことだ。
夢で見たシーンを再現しています。まだ続きます。気に入ってもらえれば嬉しいです。




