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電子天女に嫌われたのは、Fランクの闇使い  作者: しるべ雅キ
濫觴の異能者達

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第98話【訓練を避けていたのは、元Fランクの闇使い】

翔星(しょうせい)の話を聞いた斑辺恵(はんべえ)とピンゾロは、

新しく編み出す技の方向性を見出した。

「本日は全ての予定を変更して特別訓練を実施」

 聡羅(あきら)達と再会した日から数日後、食堂に集合した面々を前にサイカが淡々と口を開く。


「特別訓練?」

「ああ、天女サマからの厳しいお達しだ」

 眉を(ひそ)めた斑辺恵(はんべえ)が聞き返し、翔星(しょうせい)は重々しく肩をすくめた。


「ようやくですか、待ち侘びましたよ」

「うむ、もう先送りは出来ぬぞ」

 手のひらにカリキュラムを浮かべた焔巳(エンミ)がジト目で睨み付け、コチョウも腕組みをして深々と頷く。


「おいおい翔星(しょうせい)ちゃんよ~、いったい何の訓練をすっぽかしてたんだ?」

「そうだぜ。どんな訓練も(いと)わない翔星(しょうせい)が避けるなんて、よほどの事だぞ?」

「まあ、そうかもな……サイカ、説明と準備を頼んだ」

 大袈裟に首を横に振ったピンゾロに続いて斑辺恵(はんべえ)が信じ難い表情を浮かべて問い(ただ)し、言葉少なに頭を掻いた翔星(しょうせい)は投げ遣り気味に指示を出した。


「了解。これより湖岸帰還演習の説明に入る」

「湖岸? 裏の湖での訓練って事?」

 翔星(しょうせい)に敬礼を返したサイカが手のひらに周辺図を浮かべ、ピンゾロは宿舎の裏手辺りを指差しながら聞き返す。


「肯定。湖から迎撃区画の島まで帰還するための訓練」

「なるほどね、何かの間違いで落ちないとも限らないからな」

 周辺図の湖面に点を浮かべたサイカが島まで点線で結び、斑辺恵(はんべえ)は得心の行った様子で頷く。


「内容は、異能者(バディ)輝士械儕(オーダイド)を抱えた状態で岸に上がる」

「ん? (おれ)ちゃん達が輝士(オーダー)ちゃんを?」

「そうじゃ、異能者(バディ)異能力(トーチ)のみで運ぶのじゃ」

 手のひらの画像を切り替えたサイカにピンゾロが自分を指差しながら聞き返し、隣からコチョウが肘を軽く当てながらウィンクした。


「随分と変わった訓練だね? 異能力(トーチ)のみって、他の装備は駄目なのかい?」

異能者(バディ)はLバングルのみ装着可能、輝士械儕(オーダイド)はガジェットテイルの機能を封印」

「なるほど、ちょいと骨が折れそうだね~」

 しばらく考えてから聞き返した斑辺恵(はんべえ)にサイカが淡々と答え、ピンゾロは不敵な笑みを浮かべながら(こぶし)を軽く握る。


「実はな、ピンゾロ。課題を終えれば、あとは自由時間じゃ」

「案外気前がいいな、ますます翔星(しょうせい)ちゃんが先送りしてた理由が気になるね~」

「大体の察しは付いてるんだろ? 出来る方がフォローすればいいよ」

 小声で話し掛けて来たコチョウに同じく小声で頷いたピンゾロが食堂の隅に目を向け、2人の間に顔を近付けた斑辺恵(はんべえ)も小声で方針を固めた。



「全員そろったな?……サイカ、頼んだ」

「フロートデバイス起動、これよりガジェットテイルの機能を停止」

 宿舎の裏に移動して湖の様子を確認した翔星(しょうせい)が合図し、手のひらにイカダの立体映像を浮かべたサイカは物質化して湖面に浮かべる。


「うむ、こちらも封印を確認した。すまぬがピンゾロ、手を貸してくれぬか?」

「おっけー」

 金属板を半球状に重ねたガジェットテイルを確認したコチョウを脇に抱えたピンゾロは、軽く跳躍してイカダに跳び乗った。


斑辺恵(はんべえ)様、よろしくお願いしますね」

「こうしてると、まるで普通の……」

 尾羽のようなガジェットテイルを小さく丸めた焔巳(エンミ)が手を伸ばし、先にイカダに乗っていた斑辺恵(はんべえ)は伸ばした手を掴んでしばらく見詰める。


「どうかなさいましたか?」

「い、いや! 何でも無いよ。さあ、どうぞ」

「ふふっ、ありがとうございます」

 手を握り返した焔巳(エンミ)は、我に返って手を引いた斑辺恵(はんべえ)を押し倒す勢いで抱き付きながらイカダに乗り込む。


「全員の搭乗を確認、移動開始」

「ああ、頼んだ」

 既に乗り込んでいたサイカが手のひらの画像を沖に向け、重々しく頷いた翔星(しょうせい)を合図にイカダは静かに湖面を滑り出した。



「目標地点に到達、これより訓練開始」

「って、いきなり消すのかよ!?」

 手のひらに浮かべた座標を確認したサイカがイカダを消去し、ピンゾロは驚きの声ごと湖に落ちる。


焔巳(エンミ)さん、手を!」

「ありがとうございます、斑辺恵(はんべえ)様」

「一気に行くよ! パームブラスト!」

 咄嗟に手を伸ばした斑辺恵(はんべえ)は、ゆっくりと沈んで行く焔巳(エンミ)の手を掴んでからもう片方の手に爆風を起こして跳び上がった。


「ほぅ……水蒸気爆発で一気に湖から出たのか」

「コチョウ先生、しばらくこっちに乗っててくれないかい?」

 立ち泳ぎをしながら高く立ち上る水柱を眺めるコチョウの首根っこを掴んで引き寄せたピンゾロは、そのまま肩車の要領で跨らせる。


「それは構わぬが、何をする気じゃ?」

(レイ)ガンの無い翔星(しょうせい)ちゃんが、ちょっと気になって……」

 黄色く染めたピンゾロの髪を掴んだコチョウが乗り出すように聞き返し、翔星(しょうせい)の落ちた辺りを指差したピンゾロの言葉が止まった。


「サイカ、大丈夫か?」

「動作の異常は確認されていない」

「上出来だ、さっさと終わらせるぞ」

 羽織った外套に手足を取られる事無く泳ぐ翔星(しょうせい)は、手足を広げて浮かぶサイカを両腕で抱えてから何度も水中を蹴って空へと駆け上がる。


「あらら~……発想(はっそう)()びってあんなことも出来るのね~」

「推理はハズレのようじゃの」

「らしいな、ますます気になるぜ」

 瞬く間に遠くへ消えた翔星(しょうせい)を呆然と眺めたピンゾロは、肩車から下りて顔を覗き込んで来たコチョウを小脇に抱えてから足元に風を起こして跳び上がった。



「……っと、こんなもんかな? 案外楽に戻って来れたね」

「お見事でした斑辺恵(はんべえ)様、おかげで溺れる振りをする暇もありませんでした」

 靴底に異能力(トーチ)を発動した斑辺恵(はんべえ)が難無く湖岸に着地し、しな垂れかかった焔巳(エンミ)(わず)かに唇を尖らせてから微笑む。


「何をしたかったのかは、聞かなかった事にするよ」

「では次の機会に、それより早く服を脱がないと風邪をひいてしまいますよ」

 鋭い視線に気付いた斑辺恵(はんべえ)がぎこちない笑みを返し、舌なめずりを片手で隠した焔巳(エンミ)は水に濡れた白い詰襟制服のボタンに手を伸ばす。


「自分は炎使いだから問題無いよ。それより、よく次から次に出て来るものだね」

「この日のために準備していましたから、まずは(ワタクシ)から脱ぎますね」

 ボタンに掛かる手を(かわ)した斑辺恵(はんべえ)が呆れ気味に口元を緩め、自信に満ちた笑みを返した焔巳(エンミ)は両手で裾を掴んで水兵服を脱ぎ出した。


「わっ!? 待って!?……って、水着?」

「これも、この日のために買っておきましたので」

「抜け目ないな~。でも、おとなしい水着で安心したよ」

 慌てて両手のひらを向けた斑辺恵(はんべえ)は、スカートも脱いで赤い競泳水着姿になった焔巳(エンミ)に安堵しながらも複雑な笑みを浮かべる。


「ここを切り取ってU字型の金具でつないだ珍しいビキニも買ったのですが、別の機会にお見せしますね」

「色々と大丈夫なのかな? とりあえずお手柔らかに頼むよ」

 豊満な胸を包み込む布地をハサミで切る仕草をした焔巳(エンミ)が更に指で曲線を描き、指先を目で追っていた斑辺恵(はんべえ)は軽く弾んだ膨らみから目を逸らして頭を掻いた。


「なるほど、輝士(オーダー)ちゃんが心待ちにする訳だぜ」

「自由時間が本番も同然じゃからな。焔巳(エンミ)殿ばかりでなく、わしも見るのじゃ」

 斑辺恵(はんべえ)達の様子を見ていたピンゾロが軽く肩で笑い、裾を両手で掴んで水兵服を脱いだコチョウはハーフパンツも脱いでから腰に手を当てる。


「うん、まあ……かわいいんだけど、もうちょっとね……」

「このナリで色気が出ておったら、逆に問題じゃろ」

 セパレートに見えるほど大胆に側面を切り取った緑色の水着を眺めたピンゾロが言葉を詰まらせながら選び、コチョウは平坦な胸の前で腕を組んで大笑いする。


「違いねえ……ホント、コチョウ先生といると飽きないねえ」

「安心せい、その時が来たら満足させてやるわい」

 思わず吹き出したピンゾロが大きく息を整え、コチョウは含み笑いを返しながらへその下まで手を滑らせた。


「それこそ洒落になんねえだろ……そういや、翔星(しょうせい)はどこ行ったんだ?」

「ふむ……終わって早々、どこかに消えおったな」

 密かに息を呑んだピンゾロが誤魔化すように周囲を見回し、呼吸を合わせるかのようにコチョウも見回す。


翔星(しょうせい)ちゃんも一発クリアだったし、何が嫌だったんでしょ?」

「そこはサイカ殿に任せるしか無かろう。ほれ、着替えて来るのじゃ」

「更衣室に海パンとは用意がいいね~、ちょっくら着替えて来るぜ」

 小さな水たまりだけが残った地面を確認したピンゾロは、近くに張ったテントに親指を向けたコチョウから紙袋を受け取ってテントへと向かった。



「どうした? 自由時間なら宿舎に戻るのも自由だろ?」

「貴官が宿舎に帰還する理由の開示を要求する」

 宿舎正面付近で水を吸った外套を絞っていた翔星(しょうせい)が振り向き、胸や腰にフリルを付けた白い水着に身を包んだサイカと目が合う。


「あまり深く聞くなよ。子供(ガキ)の頃にプールで色々とあってな……水着の女性と同じ場所にいる自分がイヤなんだ」

「情報開示に感謝。ここに貴官を蔑む者はない、今はこの体の注視を推奨」

 ため息をついた翔星(しょうせい)が重々しく口を開き、サイカはフリルの上から淡い膨らみに右手を沈めて柔らかく微笑んだ。


「それ、女の子が言っていいセリフじゃないだろ」

「この体は貴官の輝士械儕(オーダイド)、発言には問題が無いと判断」

 毒気を抜かれて吹き出した翔星(しょうせい)が目を隠すように手のひらを額に当て、サイカは大きく胸を張って親指を立てる。


「まったく……(オレ)の傷なんて小さなもんだと実感させられるぜ」

「心の傷は永く残る。貴官を癒すのも、この体の役目」

「傷を癒せるなんて考えた事も無かったぜ、ありがとな……」

 サングラス型のバイザーを掛けて軽く伸びをした翔星(しょうせい)は、抱擁を催促するように両手を広げたサイカの頭を軽く撫でてから宿舎へと入って行った。

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